円満 ページ49
1月26日の午前中に、司咲は京都へと旅立った。髪にはつばさにもらったバレッタとピン留めがつけられていた。一人旅は慣れている。なのに、悲しいのはつばさと仲違いをしてしまったから。あれから、何度電話をしても出てくれなかった。
京都に着いたのはお昼頃だった。地図アプリを頼りに晴明神社へと向かった。トボトボと歩く司咲の陰気な雰囲気に近寄っていくのは霊や妖怪だけだった。
東京よりも多い魑魅魍魎はほとんどがあまり力のないものばかりだった。年々、視える人間が減るにつれて、妖怪の妖力も弱まっているというのは本当みたいだ。妖怪の巣窟である京都があまりにも弱いモノで溢れている。
『久しぶりだ！視える人！』
『ねぇ、一緒に遊ぼう』
声をかけてきた妖怪たち。だけど、余裕がなくてそのまま晴明神社の敷地に入って行った。
『浮かない顔』
司咲に声をかけてきた御祭神は穏やかに笑った。
「…晴明様。先日はありがとうございました」
頭を下げると、晴明は司咲の顔を覗き込んだ。
『この前助けた、あの青年を守りたい？』
「……はい」
『あの青年が好き？』
「……はい。…大好きです」
『それならば、私が直々に陰陽道を教えよう』
「…ありがとうございます」
晴明はベンチに司咲を誘導すると、隣に座った。
『……若い娘がそんな顔をするものではないよ』
司咲は顔を上げると、顔に手を持っていった。
「……顔？」
『話してごらん。抱えすぎると壊れてしまうからね』
「……でも」
『私も元々は人間だったから、分かってあげられることもあるかもしれない』
司咲は下を向いた。前髪につけた、つばさからもらったピン留めに触れた。
「……怒らせちゃったんですよね。私が拒否したせいなんですけど。大好きだから、困らせたくなかっただけなんですけど…。逆効果だったみたいです」
側にいないつばさを想って、何度も泣きそうになった。その度に何とか耐えて、涙を押し戻した。
「……わたし、あの人を不安にさせていたみたいです。ちゃんと好きって言葉にしていなかった。言葉にしないと伝わらないのに……」
『思ってること全部、彼に言うのがいい。円満の秘訣は話をすることだと聞いた事がある』
「…でも、電話しても出てくれないんです」
涙が溢れて頬を濡らした。強く強く、両手を握りしめた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
