特別休暇 ページ48
暗い表情のまま出勤すると、社長が待ち構えていた。
「おはよう、司咲さん。浮かない顔してるね。何かあった?」
驚きで声を出せないでいると、彼は楽しそうに笑った。
「……社長。おはようございます」
「…何かあった?」
「あ、すみません。プライベートな事なので、社長が気にされることでは…」
「じゃあ、じゃんけんしようか」
「………へ?」
予想していなかった言葉に、司咲は目を見開いた。
「歌合に参加したメンバーの1番の功労者は司咲さんだからね。1人の人の命を救ったのだろう?」
「いえ、そもそも私が呼び込んでしまったものですし。私がいなければ何事も起こらなかったはずです。それに、私1人では救えませんでした」
今朝の怒った瞳を思い出して、また視線を下に下げた。嫉妬をさせてしまった。
「落ち込まないで!そんな事ないから!とりあえず、じゃんけんしよう!」
「……はい」
「司咲ちゃん、頑張れ!」
「負けるな!社長なんかぶっ飛ばしちゃえ!」
何故か声援を受けて、司咲は社長とのじゃんけんに挑んだ。
パーで勝つと、何故か歓声が聞こえた。瑞稀と朱音がハイタッチしていた。首を傾げると、社長は穏やかに笑った。
「瑞稀さんと朱音さんと司咲さんは明日から5日間の特別休暇を設けます」
「え?」
「歌合のスタッフとして頑張ったのだから、これくらい当然でしょう?じゃんけんは日数を決めるためのレクリエーションのようなものだよ。ほとんど家に帰らずに頑張ってくれた社員を労うのも社長の大事な仕事だからね」
「ありがとうございます…」
「それじゃ、今日も1日よろしくね!」
「はい…。よろしくお願いします…」
「何があったの?」
瑞稀に問われて、司咲は首を横に振った。
「大丈夫です。…少し、喧嘩しただけですから」
「原因はこれ?」
スマホの画面を見せられた。それは、つばさが見せてきたものと相違ない。小さく頷いた。
「つばさくんに、話したいことあったのに…」
俯いた司咲を左右から抱きしめる腕があった。
「大丈夫よ、司咲ちゃん。つばさくんはちゃんと司咲ちゃんのこと愛しているから」
「そうだよ!そのうち、ふらっと戻ってくるよ」
「…ありがとうございます」
司咲は泣きそうな顔で微笑んだ。両想いなのに、関係をはっきりさせなかったから、不安に感じていたのかもしれない。そう思った。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時