電話 ページ46
『ごめん、今日は会えない』
そんなメッセージが入っていたことに気付いたのは仕事が終わってからだった。朝は頷いてくれていたのに、何があったのだろうか。
つばさは彼女に電話をかけた。だけど、コールが響くばかりで一向につながらなかった。いつもならばかわいい声が聞こえてくるのに、それがない。
『お願い。電話に出てほしい』
そうメッセージを送ると、『やだ』と言うぐでたまのスタンプが送られてきた。
『会いたい』
『無理』
『どうして?』
『どうしても』
『俺のこと、嫌いになったの?』
『そうじゃない』
メッセージならばポンポンと返ってくる。だけど、電話したら速攻で切られた。
『どうしたの?』
『どうもしない』
『どうもしないなら、電話に出てよ』
『嫌』
司咲の声も顔も見ることができない。冷たい文章だけでは、彼女がどんな顔をしているのか分からない。笑っているのか、泣いているのか、何も分からない。ただ心配で、電話をかけた。出てくれないのはどうしてだろうと考えたが、思い当たる節は何もない。
『何があったの?』
『何もない』
『さすがにそれが嘘だってことは分かるよ。俺に話してみない?』
もしかしたら泣いているのかもしれない。
『大好きな司咲の支えになりたい』
『お願い。今日は放っておいて』
「そんなの、できるわけ…」
何を言っても拒否される。彼女は何も話してくれない。それが悲しかった。
『好きな子が悩んでるって分かっているのに、放っておけない。会いに行く』
『来ないでいい』
『会いに行くから』
そう送って、つばさは車を走らせた。何と言われても会いに行く。強引でもいい。彼女の顔を見て、抱きしめてあげたい。悲しむ理由を知りたかった。
ピンポン、とチャイムを鳴らしても彼女は出てこなかった。人が動く気配もしない。
「司咲?いるでしょ?開けて」
コンコン、とノックをするが反応はない。
「……泣いているの?」
つばさは閉ざされたドアに声をかけた。
「愛している。お願い、声を聞かせて」
「……帰って。今日は誰にも会いたくない」
ドアの向こうから聞こえた声はやはり泣いていた。
「開けて。抱きしめさせて。辛いなら、俺に頼ってよ」
「帰って!」
強い口調。今日はもう誰にも会う気はないようで、つばさは頷く他なかった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時