兄弟 ページ45
「ごめん」
司咲は逃げるように店を出た。店を出て、座り込んだ。ただ、混乱している。純粋で、まっすぐに司咲を見ていた彼女は少しだけ似ていた気がする。うまく説明できないけれど、なんとなくそう思った。
司咲が求めていた家族は、会いたいと思っていた家族は妹ではなく、両親なのだ。そもそも、兄弟がいたなんて知らなかった。
「送る。帰ろう」
「うん」
司咲は博喜の手を借りて立ち上がると、手を離した。
「あの子、少し怒られていたよ」
「それは……大変ね」
「話をしたいからまた来てほしいって」
「……少し、怖い」
「本庄りな。それがあの子の名前だって」
「……りな…」
とても可愛らしい名前。司咲、なんて男みたいな名前とはまるで正反対だ。女の子らしい、柔らかい印象の名前。
「……いいな…」
ぽつりと言葉が漏れた。
「……なんで、私は捨てられたのかな。私は……愛されていなかった?」
博喜は何も言えなかった。司咲の存在意義を根底から覆すような出会いに苦しむ彼女に、どんな言葉も相応しくないと思った。背中を数回撫でた。泣き出す彼女を見ていられなかった。
「……お母さんを……探さない方がいいのかな?……急に、捨てたはずの娘が会いに行ったら、迷惑?私、どうすればいい?どうして私だけが捨てられたの?いらないってことなの?私は……っ」
「落ち着いて。大丈夫。…大丈夫だから」
はじめて、捨てられたことを恨んだ。生まれてきたことをこんなに嫌悪したことはない。愛していないのなら、『愛している』だなんて、書かなければ良かったのだ。そうすれば、こんなに傷つくこともなかったはずなのに。
「つばさかもっくん呼ぶ?」
司咲はフルフルと首を横に振った。
「…今日はもう、誰にも会いたくないわ」
「一人で本当に大丈夫?」
いつのまにか家の前にいた。司咲は小さく頷いた。
「ごめんなさい。また迷惑をかけてしまったわ」
「迷惑だなんて思ってないよ」
手を上げて帰っていく博喜を見送って、司咲は鍵を閉めた。箪笥の引き出しから大事にしまっていた紙を取り出す。びっしりと連ねられた文字は司咲への愛情だと信じて疑わなかった。最後に綴られた愛しているという言葉。紙を持つ手に力を入れた。それでも、破り捨てることなんてできなくて、司咲はそれを胸に泣き崩れた。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時