お姉ちゃん ページ44
「……実は、博喜さんに会う前に奨悟さんに会ったの」
思い出すのは、彼の傷ついたような表情。悲しみを帯びた表情。キスをされたこと。好きだと言った彼は悲しそうだった。司咲の答えが分かっているから、告白の返事を拒んだ。フラれたくないから。
「奨悟さんの気持ちには応えられない。……でもね、私は永遠に奨悟さんのファンでいたい。それは崎山さんにも分かってほしい」
司咲は博喜を見上げた。困っているのだ。奨悟をフることもできないから。つばさと奨悟の間で困っている。
博喜は司咲に笑顔を向けた。
「大変だね」
「他人事…」
「他人事だもん」
「奨悟さんに言っておいて。もう、キスしないでって」
「つばさ以外は嫌なんだもんね」
「……うるさい」
頬を真っ赤に染める司咲に、博喜は頬を緩めた。
「キスも抱きしめられるのもつばさがいいんだよね？」
頬を両手で押さえる司咲に博喜は微笑んだ。つばさに恋をしている彼女が少しだけかわいかった。
「そろそろ行こう」
「うん」
立ち上がって、司咲は博喜に着いて行った。本当に全額払わせてしまって、申し訳ないと思いつつ礼を言った。
「……あの」
声をかけられた。振り向くと、先程飲み物とケーキを運んできた店員がいた。彼女は司咲を見て、泣きそうな顔で微笑んだ。
「…お姉ちゃん」
「私に兄弟はいませんが」
「ごめんなさい」
急に深く頭を下げられた。プルプルと体が震えていて、司咲は彼女の肩を掴んで顔を上げさせた。涙で濡れた頬を拭いながら彼女は言葉を紡いだ。
「ごめんなさい。お姉ちゃん。……お母さんに代わって、謝ります。ごめんなさい」
「……な、にを…」
恐ろしくなって、司咲は彼女から手を離した。一歩一歩、と後退りしていく。トン、と博喜にぶつかって見上げると優しく微笑んで背中を押された。
「本当は、お姉ちゃんを見かけても、声をかけない方が、いい、て分かっていたけど…」
泣き顔のまま、彼女は司咲の両手を握った。
「母の名は本庄咲子。祖母の名は夏川愛子。この名前に聞き覚えは？」
司咲は目を見開いた。最近出会った鬼の春鬼も、祖母も教えてくれた母の名前が出てきた。祖母は司咲に兄弟がいるなんて、一言も言っていなかった。
恐ろしくて引いた手を強く握られた。
「聞いて、お姉ちゃん。ずっと会いたかったの。お姉ちゃんに、会いたかった…」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
