検索窓
今日:5 hit、昨日:1 hit、合計:2,983 hit

ケーキ ページ43

「忙しいのかな?」

「そうかもね。…今の人、名札に本庄って書いてあったけど知り合い?」

「まさか。そんなに珍しい名前でもないでしょ」

「でも、司咲ちゃんを見て驚いていたみたいだったけど」

「博喜さんじゃなくて?」

司咲は首を傾げながら博喜を見た。博喜はただ穏やかに笑っている。

「兄弟とか?」

「いやいや。私は一人っ子よ」

「そう思ってるのは司咲ちゃんだけかもしれない」

「どういう意味?」

「司咲ちゃんが捨てられてから兄弟が生まれた可能性もあるよね」

「……それは」

司咲は否定できなかった。仮に兄弟がいたとして。司咲だけが捨てられたというのなら、それは愛されていなかったということになるのではないか。それは、30階建マンションの屋上から飛び降りることよりも、霊に追いかけられることよりもずっと、怖かった。

「…私は一人っ子で、下に兄弟なんていない。私はちゃんと愛されていたのよ。博喜さんだって見たでしょう?愛してるって、書いてあったのよ」

ずっと大事に仕舞い込んでいた、母から施設へのメッセージ。司咲へのメッセージ。最後に記された『愛している』の文字が滲んでいた理由。司咲への愛で溢れた手紙は全て嘘だったのだと言うのだろうか。

「ごめん。そんな顔しないで。俺が悪かった。変なこと言ってごめん」

「……顔?」

「泣きそうな顔してるよ」

顔を触る司咲の頭を撫でた。

「ケーキ食べて。苺がおいしそうだよ」

「……博喜さんも食べる?」

問いかけると、博喜は首を横に振った。

「つばさに怒られるからいらないよ」

「私まだ手つけてないわよ?」

「それでも。間接キスになるから、ダメ」

「分かった」

司咲はケーキにフォークを刺した。一口食べて、おいしそうに頬を緩めた。

「んん。おいしい!」

きっと、この笑顔が2人の男を虜にしているのだろう。司咲の心は定まっていて、今も1人の男が悲しんで足掻いている。

「司咲ちゃん。……奨悟のこと、許してあげてね」

「……え?」

「今必死に、足掻いているんだよ」

「……何に、足掻くの?」

「どうにもならない現実に。…本当は司咲ちゃんのこと、諦めたくないんだよ。…分かるよね?」

司咲はこくりと頷いた。司咲もかつては博喜が好きで、フラれて諦めたからよく分かる。好きな人と同じ気持ちを持てる人なんてほんのひと握りなのだ。

お姉ちゃん→←妹



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
21人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。