妹 ページ42
新宿駅で博喜と落ち合ったのは午後2時50分。変装しているけれど、滲み出るかっこよさは隠しきれないみたい。けれど、もう博喜にはドキドキしなかった。
「私、なんで博喜さん好きだったんだっけ？」
「開口一番それ？ちょっと傷つくんだけど」
そう言いながら、博喜は笑っていた。
「冗談よ」
「そんなこと言ってたらつばさに嫉妬されるんじゃない？服もおしゃれにしてるし」
「いいのよ。つ……、崎山さんは。勝手に嫉妬しているだけよ」
「かわいそう」
博喜と並んで歩きながら、司咲は微笑んだ。
「つばさって呼ばないんだ？付き合っているのに…」
「…付き合ってないけど」
「付き合ってないの？」
本気で驚く博喜に司咲は頷いた。
「…キスはされるし、抱きしめられるけどね」
「でも、嬉しいんでしょ？」
「……まあ、ね」
カフェに入った博喜と司咲は案内された席に座った。
「今日は俺が奢るから、好きなもの頼んでいいよ」
「いいよ。悪いし。自分の分は払うわ」
「ダメ。助けてもらったお礼だから」
「そんなの、いいって言ってるのに」
「俺が良くないの」
司咲が今の会社に入る前。面接帰りに出会った博喜の体に霊が入り込んだ時のこと。弱い霊だったから、司咲でも調伏することができた。博喜はもしかしたら死んでいたかもしれなかった。だけど、霊が博喜の体に入り込んだのは後から考えると司咲のせいだったのだ。司咲と関わってしまったからなのだ。
奢ると言って譲らない博喜に司咲は小さく笑ってメニュー表を指差した。
「……じゃあ、苺のケーキと紅茶」
「いい子」
頭を撫でられて、司咲はぶうっと頬を膨らませた。
「子ども扱いしないしないで」
小さく笑って、博喜は店員を呼んで注文をした。そんな彼に司咲は礼を言った。
「こんな大きな娘はいらないな」
頭を撫でる博喜は優しく微笑んだ。
「司咲ちゃんは妹みたいなものだよ」
手を振り払って、司咲は顔を背けた。じわじわと頬が色づいていく。
「あ、嬉しそう」
「別に！」
お冷やを喉に流し込んで、誤魔化そうとしたが、誤魔化しきれなかった。
「お待たせいたしました」
そう言って、女性店員がお盆を手にやって来た。制服の胸元のネームプレートには『本庄』と書かれていて、博喜は妙に縁を感じた。
その店員は目を瞠り、そして淡々と注文の品を置いて去って行った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
