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「なんなのよ、もう…っ」

今日はほとんど会話をしなかった。意味が分からない。好きだとぐいぐい迫ってくるのに、急に離れたりする彼の行動理由が分からない。

抱きしめられた時、胸が少しだけ弾んだのは気のせい。

劇場内の椅子に腰かけてぷらぷらと足を動かす司咲には誰も近寄れなかった。仕事は終わっていて、ただ座っている司咲に近寄ろうとすればつばさの眼力が飛んでくるから。

取られたくないのなら、側に行けばいいのにと誰もが思った。

「はあ。帰ろ」

立ち上がった司咲は荷物を持つと歩き出した。

「……あ」

誰も彼女を止められない。つばさでさえ、声をかけられなかった。

「……っ‼︎博喜さん!」

それは突如として起こった。振り向いた司咲は鞄を落として博喜に駆け寄った。だけど、それは間違いだったようで司咲は悲鳴のような声をあげた。

「崎山さん、伏せて!」

すぐに反応できず、つばさの体が急に倒れていくのを見た。つばさに駆け寄った司咲は彼の頬を軽く叩いた。

「…崎山さん?ねえ。起きてよ」

ぎゅぅっと頬を摘んでみるが、反応はなかった。

「どうして?博喜さんを狙っていたはずだったのに。私は博喜さんを守ろうと…」

『俺の目的はお前なんだよ』

つばさの体の中から声がして、ハッと目を向けた。つばさの胸のあたりに顔が浮かび上がっていた。

『俺がこの男の体の中にいる限り、こいつは目覚めないぜ?』

「出て行って。崎山さんを返して」

涙が溢れて、つばさの頬を濡らした。司咲の背を涼星がさすった。集まってきた俳優陣には構っていられない。

『俺はさぁ、大好きなんだよ。お前みたいな善人ぶった奴が絶望していく顔が』

「…最低」

『好きな人を目の前で殺したら、みんな簡単に絶望してくれたよ』

不穏な単語に司咲は目を見開いた。涙がつばさの頬に、瞼に落ちた。

「残念ね。私がこの人を嫌ってること、知らないの?」

静かな声が静寂に落ちる。つばさの頭を膝に乗せると、司咲は印を結んだ。

『お前はこの男を愛しているよ。だから泣いているのだろう』

「違う」

不自然に髪が舞い上がった。結んでいたゴムが切れて、髪が広がった。

「……なか…ないで……」

母→←嫉妬



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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時

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