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幸せなキス ページ34

「好きです。俺と付き合ってください」

つばさは司咲の両手を握った。

「…応えてくれるよね?」

熱のこもった瞳。その声も、手の温もりも、キスの感触も、抱きしめられた時の安心感も全部、本当は大好きで。でも、今は応えられない。彼を守るために強くなると決めたのだ。まだ何も動き出してない。

「……む、り」

やっとの思いで絞り出した声はか細くて、震えていた。

「……どうして?想いは同じでしょ?」

「…今は、無理」

握られた手を離すと、司咲はつばさに抱きついた。

「あなたの言う通り、私は崎山さんが好きよ。でも、それだけじゃダメなの。…今のままじゃ、守りきる自信がない」

「守られたいだなんて、思ってないよ」

「もう大切な人を傷つけたくない。あなたを、失いたくないの」

優しく抱きしめ返してくれるつばさを失いたくはないから。もう、泣きたくないから。

「崎山さんを失うくらいなら、今すぐあなたの前から消える。あなたの活躍を遠くから見守っている方が幾分かマシだわ」

「…ずるい。そんなの、引くしかないじゃん」

司咲から腕を離したつばさは体を離そうとした。けれど、それは叶わず強く強く司咲の腕が腰に絡みついた。

「嫌いだったのに」

「うん」

「関わりたくなかったのよ」

「うん」

「絶対、強くなるから。待ってて」

「分かった。ずっと、待ってるから」

寂しそうに腕を離すと、つばさは微笑んで髪を撫でた。簪を抜き取ると、髪が広がって背中に下ろされた。

「ちょっ…」

「いいでしょ、もう仕事終わったんだから」

そっと顔を近付けると、司咲はゆっくり目を閉じた。今までで一番、幸せなキスだった。背中に回った腕が優しく司咲を拘束する。司咲もつばさの背中に腕を回した。

唇を離すと、司咲はつばさの肩に顎を乗せた。

「心移りしないでよ。…龍儀さんとかに」

「……なんで龍儀?」

「…だって、あなたは私以外の女は愛せないのでしょう?」

頬に優しく口付けられて、頬が熱を持つ。

「当たり前でしょ。俺は君だけが好きなの」

「今朝、崎山さんと龍儀さんが付き合う夢を見たわ」

「龍儀こそありえないから。龍儀男だし」

「つまりね、心変わりしたら許さないから」

「司咲ちゃんこそ、俺の他に好きな人作らないでね」

「ありえないわよ」

それから2人はしばらく抱きしめ合っていた。

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時

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