茹でたタコ ページ33
「わ、寒っ」
外の空気を吸いたくて、開いていた窓に近寄った。冬の冷気が顔に直撃して首をすくめた。
「司咲ちゃん」
ふわりと肩につばさの上着をかけられた。笑顔で司咲だけを見つめるつばさに心臓が脈打った。
「…ありがとう」
上着の袖に腕を通した。身長はさほど変わらなくても、やはりぶかぶかで袖がかなり余っていた。
「かわいい」
頬に手が触れた。見上げると優しい瞳に出会った。この温かさを求めていた。
つばさの手が髪に触れた。優しく撫でられて、俯いた。嬉しくて頬を緩める司咲はつばさの指に顎を掬われて上向かせられた。
「…あまり、勘違いさせないでよ」
「どういう意味よ」
笑って手を振り払った。
「崎山さんはどうしてここに？」
壁を背に、座りながら問いかけると彼も隣に座った。
「かっこ悪いから秘密」
「今さらじゃない」
ちらりと司咲を見つめるつばさは床に置いた手に自分の手を重ねた。少しだけ冷えた体温がつばさの手に伝わる。
「好きだよ」
はじめて、幸せにしたいと想った相手。
「さっき奨悟とキス、してたでしょ」
「違うわよ。したんじゃなくて、されたの」
「同じだよ」
どっちからしたか、とかつばさにとっては些末な問題で、司咲と奨悟がキスをしたという事実が問題なのだ。
「嫉妬して、弱いくせに飲んだから酔って涼みに来た」
両肩を掴まれて、目の前にはつばさの顔があった。
こんなに感情が昂るのも、大好きなはずの彼女にイライラしてしまうのも全部、お酒のせい。
「…どうして俺じゃないの？どうして俺以外のところに行くの。……俺以外の男と幸せそうに笑わないでよ」
唇が触れるか触れないかの距離につばさの顔が近づいてきて、途端に頬が熱を出す。
「俺に脈がないならちゃんと拒んで」
「……ずるい」
恥ずかしくて、でも拒むことなんてできなくて茹でたタコよりも赤い顔をしていた。唇に重なる温もりが、涙が出そうなほど嬉しかった。目を閉じると、つばさの背中に両手を回した。
宴会の席からも見えるその場所で、つばさと司咲を気にする人なんていない。酔い潰れているか、食事やお酒に夢中になっていて、誰がいないかなんて気にしていない。ただ1人を除いては、誰も見ていなかった。
「…俺のこと、好き？」
真っ赤な頬を撫でて、聞いた。瞳がゆらゆらと揺れていて、目が合わなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
