嫌 ページ31
本気で心配してくれる来夢に司咲は笑顔で答えた。
「うちの先輩たち」
「ああ、仲良いよね」
「うん、まあね」
「あ、司咲ちゃん」
声をかけられて、見上げると博喜がいた。
「博喜さん。お疲れ様」
「司咲ちゃんもお疲れ様」
彼は司咲の隣に腰を下ろすと、何かを思い出したような顔をした。
「明日、お茶行く?…ほら、約束してたから」
「うん、もちろん。楽しみ」
「でも、2人っていうのはつばさ的にあまり良くないんじゃない?」
「んー…。じゃあ、来夢くんも来る?」
「嬉しいけど、ごめん。明日は1日仕事」
「そうなんだ。大変ね」
司咲は自分よりも背丈のある来夢の髪を撫でた。頑張る彼にエールを送りたかった。
「ありがとう、司咲ちゃん」
「うん」
優しく微笑むと、首に誰かの腕が回ってきた。
「きゃっ」
引き寄せられて、身動きが取れなくなった。それが誰かなんて、すぐに分かった。つばさの温もりじゃないことが少しだけ不服だった。
「…離して」
「…離さない。ねえ、僕じゃダメなの?」
胸が痛くなった。奨悟のファンである司咲はその気持ちに応えてあげられない。つばさに恋をしてしまったから、他の誰も受け入れられない。
「…ごめ」
奨悟の手が司咲の続きの言葉を塞いだ。口を塞ぐ手が聞きたくないのだと、伝えてくる。
「…少しだけ抜け出さない?」
躊躇いがちのその言葉に、司咲は首を横に振った。何をされても、司咲は奨悟の気持ちには応えられない。だから、期待はさせたくないのだ。
「…そっか。分かった」
腕が緩んだ。やっと身動きが取れるようになって、司咲は奨悟から離れると振り向いた。
「ごめんなさい」
諦めてほしくて、そう言った。悲しそうな顔をする奨悟に胸が痛む。
「…好きだよ。…諦められないよ…」
距離を詰めた。2人きりになるのを拒まれてもなお、気持ちは溢れ続ける。膝をずっと見つめ続けている司咲の腕を掴んだ。
「……え」
驚く司咲に膝立ちで近付くと、唇を奪った。
「……嫌っ」
腕を取られていて、抵抗できない司咲はせめてもの抵抗として、顔を背けた。拒まれたことに傷つかないわけがない。それでも、想うことはやめられなくてそっと立ち上がった。
「ごめん」
彼はそう言って去って行った。背中に哀愁を背負って。
司咲は小さくため息をついて、来夢に寄りかかった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時