嫉妬 ページ4
東京公演の幕がもうすぐ開く。大体の人の衣装を着せ終わり、あとはつばさの紐を結ぶだけ。それなのに、何故か彼は紐を結ばせてはくれなかった。睨みつけると、拗ねたように顔を背けるだけだった。
「…あの」
文句を言おうとした唇をつばさの指が制した。人差し指が唇に触れている。
好きな人を困らせている自覚はあるから、申し訳ないと思う。けれど、口を開けば恨み言が出てくる気がした。きっと傷つけてしまう。だから何も言えなくて。でも一緒にいたくてこんな方法しか思いつかない幼稚さに嫌気が差す。
昨日、博喜にお姫様抱っこをされていた彼女。並んで一緒に帰って行った彼女。嫉妬をしないわけがない。
今日は一言も言葉を交わしていない。それが辛いのに、何も言えなかった。
司咲の頬を両手で包んで、額を合わせた。彼女の友人はほとんどが男で、基裕繋がりの友達だからそれは仕方のないことなのに、悔しかった。またつばさ以外の男に好意を寄せるのではないかと怖い。
「…好き」
頬から背中に手を移動させて、抱きしめた。たった2文字の中にいろんな想いが詰まっていることに彼女は気付くだろうか。否。きっと気付かない。司咲は悲しいほどにつばさに興味がないから。
「……好き」
彼女だけに見てほしい。彼女に好きになってほしい。届かない想いは虚しい。どうしてこっちを向いてくれないの。どうして他の男ばかり見るの。どうして博喜に触れさせたの。言いたいことは山程あるのに、そのどれもが自分勝手な嫉妬だった。
腕の中の彼女はただ静かだった。抵抗はしないけれど、受け入れてもくれない。昨日は博喜に抱きついていたのに。嫉妬がまた膨れあがる。
「…離して」
氷のように冷たい声だった。怒るのも無理はない。つばさが彼女の仕事を邪魔しているのだから。大人しく腕を解くと、彼女は素早く紐を結んでつばさを部屋から追い出した。
「司咲ちゃ…」
閉められた扉。胸がズキズキと痛い。きっと、また嫌われたのだと俯いた。
「…ごめん」
小さく謝って、つばさは扉から離れた。他の男に触れてほしくない。他の男と2人になってほしくない。メイクをして、綺麗になっている司咲はつばさだけが知っていればいい。自分勝手でわがままな心が司咲を必死に求めている。
ため息をついて、頬を叩いた。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時