違う ページ27
「…休憩終わる?」
司咲は左腕を奨悟の背中に回して腕時計を見る。
「あと10分」
傍から見たら抱きしめ合っているような格好だ。それに気付かずに司咲は時計の針を眺めていた。
「僕とデートしてほしい」
耳に直接声が吹き込んでくる。
「えっ。……いや…」
「……嫌?」
悲しそうにそう言ってくるから、司咲は言葉に詰まった。
「…嫌、というか…。恐れ多い…」
細い体を奨悟の腕が優しく抱きしめてくる。髪を撫でる手が、壊れ物を扱うようにひどく優しかった。
やはり、その温もりも扱われ方もつばさとは違う。つばさも、多少強引な時もあるが優しい。
大切に扱ってくれているのはよく分かる。でも、違うのだ。司咲が求めている温もりは、違う。彼の肩を押して離れると、司咲は奨悟の瞳を見つめた。照れたように笑う彼に司咲は口を開く。
「告白、してくれたことは嬉しかった。…でも…っ!」
口を塞がれた。目を見開いて、奨悟の胸を押す。奨悟のことはファンとして、好き。でも、キスは嫌だった。
「…あの」
「…返事は急いでないから。ゆっくりでいいよ」
優しく微笑む彼は司咲の言葉なんて聞いてくれなかった。それでも、伝えようと口を開きかけた時、奨悟の人差し指が唇に触れた。
「…ごめん。今は聞きたくない」
キスを拒まれた理由なんて、とうに分かっている。動き出すのが遅かった。諦めるだなんて、できなかった。彼女を『ファン』の枠にとどめておくことはできない。奨悟にとって、司咲は数多いる人の中の1人ではない。たった1人、特別な人なのだ。
でも、いつかは聞かなければいけない。彼女のその続きの言葉を。何もかも遅すぎたのだ。諦めようだなんて思わなければ、こちらを見てくれただろうか。
司咲は小さく頷くと立ち上がった。
「……分かった」
「…司咲ちゃん。…好きだよ」
司咲は小さく笑うだけで何も言わなかった。
「奨悟さん、肩貸してくれてありがとう」
「司咲ちゃんにならいくらでも貸すよ」
歩き去って行く司咲の背中を見送った。耐えきれずに、頭を抱えた。衣装のまま、泣いてはいけない。でも、どうしようもなく苦しかった。うまく息ができなくて、深呼吸を繰り返した。
大好きな司咲の笑顔が奨悟にとっては残酷だった。もう既に、彼女の心は定まっている。フラれると分かっていても、好きな気持ちは抑えられなかった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時