一目惚れ ページ26
遠慮しない、と決めてからというもの、想いが募っていく。
身を引こうと決めたのに、隠しきれずに彼女に焼きついた想いが、比にならないほどに大きく膨れ上がっていく。
『考えておいて』と、告白の答えを聞かなかったのは、フラれると分かっていたから。フラれるのが怖かったから。
千秋楽を終え、彼女に会う機会はぐんと減る。それでも伝えたのは、諦めきれないから。幾度となく、彼女はつばさの想い人だと言い聞かせてきた。
割り切れなかったのだ。実際、彼女は誰のものにもなっていない。
遠くに見える司咲が、彼女の先輩に囲まれて穏やかに笑っていた。そんな姿も愛おしいと思う。
「あ、奨悟さん!写真撮りましょう」
目を向けると、キラキラな笑顔の升吾がいた。
「いいよ」
2人で自撮りをする。スマホの画面には堀川国広と篭手切江が笑顔でポージングをしている。
「それ、送って」
「はい!」
ニコニコとスマホを操作する升吾を横目に、司咲がいた場所に視線を移すが、そこにはもう彼女の姿はなかった。
「いつから好きだったんですか?」
「ん?」
「司咲ちゃんのことです。さっき抱きしめていましたよね?」
「…やっぱり、バレてる?」
「あからさまですからね」
ピコン、と奨悟のスマホが鳴った。
「…一目惚れだよ」
多くは語らなかった。奨悟の瞳が司咲を探して右往左往していた。
「水くさいな。言ってくれれば、少しは協力したのに」
「ありがとう。…升吾は誰かと同じ人好きにならないようにね。…しんどいから」
「善処します」
「写真、ありがとう」
そう言って奨悟は歩き出した。やっと見つけた司咲は誰もいない、廊下の隅っこで座り込んでいた。疲れたような顔をして、少し眠っているようだった。かくかくと頭が揺れている。
起こさないように隣に座ると、奨悟は司咲の頭を肩にもたれさせた。肩を抱いて、髪を撫でると優しく微笑んだ。
今だけは2人きり。誰にも邪魔されない。すやすやと眠る彼女が愛おしい。
こうして、彼女に肩を貸しているとまるで恋人同士みたいで嬉しい。
ふと、司咲のスマホから音楽が流れた。聞き覚えのあるイントロに、馴染みのあるフレーズ。目を覚ました司咲は奨悟と目が合って、目を見開いた。
「…えっ⁉︎」
奨悟から離れようとする司咲を抱きしめた。
「わっ」
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時