正々堂々 ページ24
「……奨悟」
ばったりと会ってしまった。後ろめたさを隠せずにいる奨悟に、つばさは微笑みかけた。
「…お疲れ様」
「…お疲れ様です」
ペコリと頭を下げて隣を通り過ぎようとする彼につばさは微笑んだ。
「見てたよ」
つばさを振り返った奨悟は驚いたような顔をしていた。
「…つばささん、いないと思ったのに…」
「好きな子のことなら、遠くにいたって分かるよ。そうでしょ?」
「…牽制、ですか?」
「違うよ。謝りたくて」
つばさは奨悟を手招きすると、近くの椅子に座るよう促した。自動販売機でコーヒーを2本買って、片方を奨悟に渡した。
「…ありがとうございます」
素直に受け取る奨悟をつばさは横目で見て、プルタブを開けた。
「俺が司咲ちゃんにアタックしていたから、言い出せなかったんでしょ?ずっと想いを秘めているのは…辛かったよね?」
「…でも、さっき…。想いを伝えました」
「もう、こっそり想わなくていいよ。正々堂々、戦おうよ」
「…余裕、ですね?……ムカつく」
「余裕なんて全然ないよ。今も司咲ちゃんが奨悟のところに行ったらどうしようってヒヤヒヤしてる」
奨悟はプルタブを開けると、一口飲んだ。もう、後には引けない。もう、誤魔化せない。
「でもさ、後輩にそんな顔させたくないんだよ。我慢なんてしなくていい。まあ、でも……司咲ちゃんは渡さないけどね」
「…司咲ちゃんが好きです。つばささんには負けません。僕が幸せにします」
「司咲ちゃんがどっちを選んだとしても、受け入れよう」
「……はい」
「今日から奨悟はライバルだ」
そう言って、2人は握手をした。お互いに譲れない思いがある。男同士の戦だ。
コーヒーを飲み干して、奨悟は立ち上がった。
「コーヒー、ご馳走様でした」
「うん」
背を向け去って行く彼を見送ってから、ドクドクと鳴る心臓を押さえた。
ライバルを焚きつけてどうする。相手は司咲が好きな阪本奨悟だ。勝ち目なんてほぼないじゃないか。
「ああ……」
司咲の笑顔がつばさから離れて行くような予感がして、頭を抱えた。博喜の時は、司咲が片想いしていた。でも、今は奨悟が司咲に片想いをしている。両思いになるのも時間の問題のような気がした。
彼女がつばさを選んでくれる、なんて期待はしない。期待をすればするほど、傷つくだけだ。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時