甘味 ページ23
しゃがみ込んで、文章になっていない声を発するつばさの髪を司咲は優しく撫でた。
「…だいじょうぶ」
掠れた声でそう言って微笑む司咲は彼に手招きをした。近づくつばさの耳にそっと囁いた。目を見開いて、つばさは頷くと司咲を抱き上げた。
つばさの首に両手を回して抱きついた司咲はその首元にすりついた。
椅子に下ろした司咲に、つばさは自動販売機で飲み物を買って手渡した。
「…どうして、俺に?」
「そこにあなたがいたからよ」
缶のプルタブを開けて、中身を喉に流し込んでから司咲はそう言った。
「喉乾いてたのよね」
「姫君は甘いものがお好きなようで」
「なにそれ?私、姫なんて柄じゃないし、嫌よ」
「……えぇ」
声はもう掠れてはいなかった。喉が乾いて掠れていただけのよう。
「王子様は奨悟さんがいいわ」
「………なんで」
低い声。だけど、先ほどの反省もあるのか、手を出してはこなかった。
「かっこいいからよ。当たり前でしょ」
つばさの顔を覗いて、司咲は笑った。頬を膨らます彼はなんだか少しだけかわいく見えた。
「…嫉妬してる」
「当たり前でしょ。俺は君が好きなんだから」
「……わざとだけど」
見つめられて、司咲は楽しそうに笑った。
「崎山さんに嫉妬させたくて言った」
「どういう意味?」
「今はまだ言えない。だから、ちょっとだけ待ってて。あなたが言ったのよ。3ヶ月って」
「…分かった。…期待していいんだよね?」
「ご想像にお任せするわ」
司咲は嬉しそうに微笑むつばさを見て、笑った。
「お姫様はやっぱり、瑞稀先輩かな。あ、でもそれだったら、王子様は荒木さんの方がいいわね」
「楽しそうだね?」
「うん、まあ…?」
つばさが隣で話を聞いてくれるからだと、口走りそうになって慌てて笑って誤魔化した。
「あげる」
飲みかけのミルクティーをつばさに渡した。
「もう戻らないと」
くるりと背を向ける彼女に、つばさは声をかけた。
「ごめんね」
「いいよ、別に。気にしてないわ」
去って行った司咲を見送って、つばさはミルクティーを口に含んだ。甘さが口の中に広がった。胃もたれしそうなほどの甘みにつばさは小さく笑った。
「…あま…」
あまり甘い飲み物は飲まないから、余計にそう感じたのかもしれない。でも、嬉しかった。彼女の好きなものを共有できたことが。何よりも。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時