本当は ページ21
「司咲ちゃん」
ヒラヒラと手を振る奨悟に気付いて、司咲は微笑んだ。
「奨悟さん、こんにちは」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「何だろう」
「こっちこっち」
手招きされて、促されるままに司咲は彼に近付いた。肩を抱かれて、司咲はびくっと肩を揺らした。奨悟を振り向くより先に頬に彼の唇が触れた。
目を見開く司咲が何かを発するより早く、唇を塞いだ。状況が理解できなくて、司咲は目をパチパチと瞬きを繰り返した。彼の腕に抱きしめられていることも、キスをされていることも理解できなくて、ただ混乱していた。
「…ごめん。お願いがあるなんて嘘だよ」
彼のファンである司咲は突き飛ばすこともできなくて、ただ身を固くしていた。
「……どうして…」
掠れた声でそれだけ問いかけた。
「本当はずっとずっと…好きだった」
耳に直接声が入ってきて、その内容に心底驚いた。
「……えっ?」
「でも、すぐにつばささんが司咲ちゃんに猛アタックしてることを知った。争いは好まない。だから、僕が身を引こうって思った…」
「……そんな素振り、全然…」
「隠してたからね。きっと、誰も気付いてないよ」
奨悟は腕を緩めると、司咲の前髪をかきあげてそこに優しく口付けた。背丈が同じだから、奨悟が少しだけ背伸びしていた。
「諦めようって身を引いて、博喜さんとの恋を応援していたのに、フラれたって聞いて…嬉しかった。最低だよね」
「……そんな、こと」
「日に日に好きになる。ずっと近くにはつばささんがいるから、眺めてるだけの方が断然多いんだけど…。ずっとかわいいなって思ってた。僕のファンだって聞いて、嬉しかった。ずっと触れたかった」
彼の手が頬に触れた。親指で撫でられて、気がついたらまたキスをされていた。羞恥に耐えられずに目を閉じた司咲は、胸の前で両手を握り合わせた。
「…つばささんじゃなくて、僕と付き合ってほしい。…返事は今じゃなくていいから、考えておいて」
髪を撫でられて、短くキスされて司咲はその場にしゃがみ込んだ。背を向けて去っていく奨悟を司咲はただ見つめていた。真っ赤になる頬を押さえられない。
「…断って」
顎を掴まれて、また誰かにキスをされた。それは、奨悟とは違う。今朝も昼も重ねた温もりだった。目を閉じた司咲の唇を荒々しく貪られて、つい胸を押して拒んでしまった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時