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好きな男 ページ17

司咲はペタペタと顔を触った。基裕を見上げて、照れたように口角を上げた。

「…好きな男でもできたか」

「えっ。…なんで」

「なんでって、何年一緒にいると思ってんの?そんくらい分かる」

「…でも、付け焼き刃では守れなかった」

司咲は俯いた。修学旅行の、短い間で教えてもらったものは簡単な護身術と、簡単な妖怪退治の術。そして、護符の書き方。

「…私、落ち着いたら少しだけ京都へ行こうと思うの。晴明様に聞いてみる。大切な人を護る方法を」

「…そっか」

「…崎山さんに言わないでね!……あの人には知られたくないの」

「分かった。……つばさか。司咲の好きな男は」

「……言わないで」

ボッと染まった頬を両手で押さえる司咲を、基裕は微笑ましげに見つめた。

「娘を嫁に出す父親の気分」

「……なにそれ」

「幸せになれよ」

「嫁に行かないからね?…そもそも、付き合ってないし」

「そうなの?なんで…」

「あの人を守る騎士(ナイト)になりたい。だから、今のままじゃ付き合えないの。もっと強くなる」

司咲の瞳の中で燃える炎はきっと誰にも止められない。

「…そっか。頑張れ」

小さな声で、心強いエールを送ってくれる基裕が司咲は大好きだ。公共の場でなければきっと抱き着いていた。基裕を見上げて、大きく頷くと司咲は満面の笑みを浮かべた。

「で、司咲。つばさの家に泊まったの?一夜を共に…?」

急にニヤニヤとそう言ってくるから、司咲は基裕の腕を叩いた。

「そ、そんなわけないでしょ!」

顔を真っ赤にしてそう言う司咲に、基裕はケラケラと笑った。完全にからかわれていると分かっていながら、反応してしまう自分が憎い。

「…泊まったけど、それはあの人を守るためでそういうことじゃ…」

朝のキスを思い出して顔を両手で覆った。

「……でも」

首を傾げる基裕に、司咲はモゴモゴと言葉を紡いだ。

「…キスされた」

「好きな女が目の前にいたらキスくらいするよな」

そう言って笑う基裕を見上げて、司咲も笑った。つばさにキスされた感覚がいまだに残っていて、恥ずかしかった。

基裕は司咲の髪を撫でた。

「幸せ?」

「うん」

「なら安心」

辛い過去も、嬉しい出来事も、つばさと共有して幸せそうに笑えばいい。今まで悲しんだ分だけ、幸せになればいい。兄貴分として、そんな司咲を見守っていたいと思う。

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2022年2月16日 13時

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