キス ページ1
頬に、額に口付けられて、司咲はつばさを強く睨みつけた。
「……好き。……大好き」
紅の取れた唇を親指が優しくなぞった。
「…ごめん。嫉妬した」
髪を撫でて、抱きしめた。耳にキスをされて、肩がピクッと震える。
「来夢の髪、撫でないでよ。俺にしてよ」
「……絶対、嫌」
「ねぇ、撫でて。じゃないとキスするよ」
「最っ低…！」
顎を上向かせられて、つばさの熱い瞳が真っ直ぐ見つめてくる。負けじと睨み返す司咲の濡れた唇がつばさを誘っているような気がした。吸い付くようにキスをするつばさの熱に溶かされてしまいそうで、唇が緩んだ。唇を舐めていたつばさの舌が不意に口の中に入ってしまって、バッと離れた。
「……どうして」
「…別に。噛みつこうと思っただけよ」
「怖っ」
ふんっと顔を背けて腕を組む司咲の髪を撫でた。
「…ごめん。強引にキスしたのは謝る。……でも、嫉妬させる司咲ちゃんも悪いんだから」
ぷくっと頬を膨らますつばさに指を突きつけられて、司咲はため息をついた。
「……何も言わずに帰ったくせに」
ぼそりと呟いて、司咲はつばさの横を通り過ぎた。苛立ちが伝わったのか、追いかけてくることはなかった。更衣室に荷物を置いて、不恰好になった化粧を落とすと、鏡の中の唇に視線がいった。もう何度もキスされているのに、嫌だったはずなのに何故か胸が熱くなる。嫉妬されて嬉しいだなんて、気のせいなのに。
昨夜、風呂上がりにつばさがいなくて、ガッカリしたのは何故だっただろう。
うざいくらいに絡んでくるのに、急に離れて行くから分からない。何故こんなに彼のことで悩まないといけないのかも分からない。
「…バカみたい」
分からないならもういい。そんなことより、今は仕事が優先だ。
パン、と頬を叩いて司咲は更衣室を出た。
「瑞稀先輩、朱音先輩。お疲れ様です」
「司咲ちゃん。おはよう」
「おはよう。来て早々で悪いけど、つばさくんの衣装の裾のほつれを直してくれる？」
「はい！」
司咲は近くの椅子と机を借りると、つばさの衣装を広げた。ほつれた場所が複数あって、舞台の上であれだけ動き回っていれば糸も耐えられないだろうと笑った。
「…デート、どうだった？」
ゴンッと膝を机にぶつけた。
「えぇ…。大丈夫？」
「大丈夫です…。あはは」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2022年2月16日 13時
