知らないふり ページ49
玄関から戻ると、基裕は司咲の髪を撫でた。
「うん、いつもの司咲だ」
顔を覗き込んでそう言う基裕に司咲は微笑んだ。
「ありがとう。心配させてごめんなさい」
司咲を抱きしめて、安心させるように背中を撫でた。
「つばさから連絡もらった時は驚いたけど、安心した。おばあさんに会いに行っていたんだってね」
「うん。嬉しかった」
「そう。それなら良かった」
つばさが見たら嫉妬するかもしれない光景。抱きしめ合う2人には兄弟以上の情なんて存在し得ない。
「……つばさが司咲のこと大好きだって」
「…知ってるわよ。早く諦めてくれないかしら…」
「つばさが他の女性と付き合ってもいいの?」
「いいに決まってるじゃない。なんでそんなこと聞くのよ」
キッと即答で反論する彼女の手にぎゅっと力が入った。つばさの隣に他の女性が立っているところを想像した。司咲は外野で見ているだけで、その2人が幸せそうに笑い合う。やがて結婚したり、子を授かったり。
何故か、想像に胸が痛んだような気がした。認めたくなくて、知らないふりをした。
「自覚するのは早いうちがいいよ。つばさ、結構モテるから」
「何を言ってるのよ?」
「…司咲、柔らかくなったよね。つばさのおかげ?それとも博喜たちと仲良くなったから?…俺は前者だと思うな」
「はあ?」
意味が分からない、と眉を歪める司咲の表情を見て、基裕は肩を震わせて笑った。
興味ないなんて、嫌いだなんて嘘。本当は気になっているくせに、強情だから認めたくないだけなのだと基裕はもう気がついていた。
娘を嫁にやる父親の気分に近いのだろうか。少しだけ寂しい気がした。
「…とりあえずご飯食べて寝るか。司咲、明日は仕事?」
「うん、でも半休貰ってるから午後から。…てか、私帰るよ。基くんお仕事あるでしょう?」
「いや、泊まって行きな。つばさに司咲を1人にするなって頼まれてんだよ。…俺は別につばさの家に届けてもいいんだけど」
「……泊まらせていただきます」
「うん、いい子」
「子ども扱いしないで!」
頭を撫でると、くわっと怒って手を払われた。基裕は声を立てて笑うと、夕食の準備をはじめた。そんな彼を手伝う司咲は嬉しそうに微笑んだ。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年10月25日 23時