風呂 ページ47
わざとらしくとぼける基裕に、つばさは笑った。
「いつもに増してかわいかった。司咲ちゃんが俺と出かけるのに自らおめかしするわけないからね。だから、ありがとう」
「妹に司咲がデートするって言ったらメイク道具貸してくれたんだよ」
「そっか。…じゃあ、妹さんにもありがとうって伝えておいて。おかげでこんなにかわいい司咲ちゃんとデートできた」
司咲の頬に触れて、親指で涙の跡を拭うつばさを基裕は微笑ましげに眺めた。
「楽しかった？」
「うん。とても、楽しかったし、幸せだった」
「そっか」
「水族館に行ってきたんだけど、そこで司咲ちゃんのおばあさんの知り合いの鬼に会ったらしくて。おばあさんに会いに行ってきたよ。司咲ちゃんを捨てたこと、おばあさんは知らなかった。ずっと探していたって言ってたよ」
司咲の髪を丁寧に指で梳く彼は優しく微笑んでいた。好きな人を想うつばさは他のどんな表情よりも柔らかくて、優しくて、美しかった。
「俺、嬉しかったよ。司咲ちゃんはちゃんと愛されていたって知ることができた」
「司咲は愛されているよ。俺も清花も司咲のこと、大切に思ってるし、つばさに愛されている」
「ふふ。うん。司咲ちゃんのこと、大好きだよ」
ふっと吹き出した。一途に恋をしている彼が眩しかった。堪えられない笑いを零しながら、基裕は立ち上がると台所へ姿を消した。
「……ん」
もぞりと動いた司咲はつばさの膝の上で目を覚ました。ぼんやりとどこかを見る司咲の視界に入って、つばさは微笑みかけた。
「起きた？」
目を見開く司咲の髪を優しく撫でた。バッと起き上がった司咲は言葉もなく驚いていた。
髪を一房指に絡めたつばさはそっと唇を寄せた。
「…なっ」
あわあわと動揺する司咲の頬が赤く染まっていて、つばさはにっこりと笑った。
「…お、司咲起きた？」
コップを2つ持ってきた基裕は片方をつばさに渡した。礼を言って受け取るつばさと基裕を見て、司咲は混乱した。頭を抱える彼女を見て、つばさは笑った。
「司咲」
基裕に声をかけられて、顔を上げるとタオルを投げられて慌ててキャッチした。
「とりあえず風呂入ってきな。酷い顔してるから」
「…わ、分かった。ありがとう」
立ち上がって風呂場の方に消えていく司咲の後ろ姿を見送って、基裕はつばさを見てクスリと笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 20人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年10月25日 23時
