好きな人 ページ5
思い出すのはいつも、傷ついた顔だった。いつも、傷つけているのは司咲なのだ。涙を見たいわけじゃない。傷つけたいわけじゃない。恋愛感情とか関係なくただ純粋に、友だちになれたら良かったのだ。友だちになることさえも拒否していた司咲がそれを望むのは的外れかもしれないけれど。
司咲のために彼がしてくれたこと。何度も話を聞いてくれた。何も疑わずに、彼は何度も司咲を助けてくれた。手を引いて、神社まで走ってくれた。両親を探すと約束してくれた。それなのに、恩は返せていない。それどころか、彼を傷つけ泣かせてしまうのだ。
つばさと別れた司咲は止まらぬ涙を流してしゃがみ込んでいた。
愛知の冬は海が近いからなのか、寒かった。
「司咲ちゃん?」
大好きな声が聞こえて、顔を上げた。涙を両手で拭うが、一向に止まらなかった。
「…ひろきさん…」
「え、どうしたの?」
駆け寄ってくれた彼が優しく声をかけて髪を撫でてくれるから、また胸が痛くなった。
「……また私が…崎山さんを傷つけちゃった」
「つばさ?つばさを想って泣いているの?」
少しだけ嬉しそうな声になった気がした。けれど、司咲は首を横に振った。
「そうじゃない。…崎山さんはとてもいい人だと思う。でも、無理なの。応えられない」
「どうして?」
博喜の問いが司咲の心を切り裂く。本人にその気がないと分かっていても、傷ついてしまう。それが恋なのかもしれない。
「だって、好きな人が…」
ぐっと両手に力を入れた。もう全てを打ち明けてしまいたいと思った。あの日、つばさが司咲に想いを打ち明けたように。意図して言ったわけではないけれど。同じように勇気を出そうと思った。
「私、博喜さんが好きなの!」
涙を拭ってそう言えば、彼は本当に驚いたように目を見開いた。全く気付いていないことは知っていた。だから、予想通りの反応だった。
「…博喜さんが私のこと、そういう風に見ていないのは知ってるし、付き合えるとも思ってない。崎山さんを応援してるのも気付いてる」
何も言えない博喜を見上げて、司咲は泣きながら笑った。
「…もう、好きでいるのやめようと思う。だからちゃんとフってほしい。また友だちに戻れるように」
「…分かった」
博喜は深呼吸をした。基裕を介して出会った女の子は不思議な体質の、少し変わった子だった。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年10月25日 23時