バグ ページ31
湯船に浸かって、司咲は頬を両手で覆った。何故キスを拒めなかったのか、彼とのキスが嬉しいだなんて絶対気のせいなのだ。
きっと病み上がりでおかしくなっているだけ。明日になればまた元に戻る。一時的な感情のバグなのだろうと、自分に言い聞かせた。
博喜としたキスとは違う。博喜としたのは彼を助けるためだったから、双方に愛などなかったのだが。
つばさの唇は優しくて、温かかった。つばさに向けられる恋心が強く胸を揺さぶった。
一方のつばさも頬を染めていた。あんな風に、司咲がつばさに対して照れたのははじめてで戸惑う。キスを拒まれなかったのも、若干ではあるが嬉しそうに頬を緩めた彼女は珍しい。
もう少しかもしれない。彼女の心がつばさに向けられるまで。キスをして、はじめて叩かれなかったのだ。
お風呂に入りながら、司咲は何を思っているのだろう。つばさのことを考えてくれていたなら嬉しいなんて思った。
お風呂から出てきたら、司咲を抱きしめてもいいだろうかと考える。何度言っても伝えきれない司咲への愛を彼女の耳元で囁きたい。つばさに恋をしてほしい。愛してほしい。そんな願望が湧き上がった。
司咲がドアを開けて出てきた。肩にかけられたタオルで濡れた髪を拭いていた。上気した頬。
キュンと心臓が動くのを早めた。
「司咲ちゃん、乾かさないと」
立ち上がって、彼女の肩に触れる。
「ドライヤー、こっちにあるから」
引き出しからドライヤーを出した司咲の手からつばさはドライヤーを取る。コンセントを挿して、つばさは彼女を手招きした。
「自分で乾かす」
「今日くらい甘えてよ」
座ったつばさの足の上を叩く彼に司咲は面倒くさくなって従った。
髪に触れるつばさの手が優しくて少しだけ気持ち良かった。
やがてドライヤーの音がやんだ。つばさはドライヤーを横に置くと、逃げられる前に司咲を腕に抱き込んだ。
乾かしたばかりの髪にキスをして、肩とお腹をホールドした。
「…何…」
「好き」
耳元で言われた言葉がくすぐったくて肩をすくめた。
「優しいところも、素直なところも、素直じゃないところも、礼を欠かさないところも、笑顔がかわいいところも、司咲ちゃんを象るもの全てが大好き。ううん。そんな言葉では表せないくらい、俺は君のことを愛してる。……俺と付き合ってください」
「………無理」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年10月25日 23時
