動揺 ページ30
お風呂を沸かし、つばさの背中を押してお風呂場に押し込むとドアを閉めた。
ずるずると座り込んで、司咲は両手で顔を覆った。何故なのかは分からない。ただ、大きく心が揺れているのが分かる。
ドアの向こうで、つばさは何を思っているのだろう。ドアに触れようと手を伸ばしかけて、司咲はハッとして立ち上がった。
リビングに戻って、布団を畳んで押し入れに押し込んだ。ありえない。ただその言葉だけが頭の中をぐるぐると回っていた。
ふと右手を持ち上げた。寝ている間、おそらくずっと握られていた。
ぶんぶんと頭を横に振って押し込んだ布団に顔を埋めた。彼に触れられて嬉しかっただなんて、絶対気のせいなのだ。
ガラガラっとドアが開く音がして、謎に心臓が跳ねた。熱を出しておかしくなったのかと頭を抱えた。足音が近づいてくる。
「司咲ちゃん、お湯ありがと…」
声を聞いた瞬間に、体温が上がるのを感じた。倦怠感や寒気はない。頭も正常に動いているのに、体温だけが高く感じられた。
背中につばさの手が触れた。
「…大丈夫？調子悪い？」
ふるふると首を振る司咲に、つばさはテーブルの上に置いてあった体温計を取ると、差し出した。
「測ってみて」
顔を上げると、司咲は体温計に手を伸ばした。真っ赤に染まった頬を見て、つばさは少しだけ目を見開いた。
脇に体温計を挟むと、司咲はゆっくりと座り込んだ。倣うように座って、つばさは司咲の頬に触れた。心配だと、その瞳に書いてあった。
体温は平熱だった。
「…俺のこと、意識してるってこと？」
「…違っ…！」
「じゃあどうして、顔赤いの？」
つばさの笑顔がまた恥ずかしくて、司咲は俯いた。
司咲の頬を撫でていたつばさの指が顎を掴んだ。迫るつばさの顔を司咲は拒めなかった。
どうして、と自分に問いかけるが答えは出ない。
「…えっと。突き飛ばしたりしないの？」
顔が近くて、少し動けば触れてしまいそうだった。
戸惑いながら司咲の頭を引き寄せると、唇が触れ合った。目を閉じた司咲の頬が赤く染まっていた。
「ねえ、俺のこと好き？」
「……分からない」
「俺は好きだよ。…愛してる」
いつもならば冷めた視線を向けているところなのに、何故か動揺してしまった。
ぐっとつばさの胸に体温計を押し付けた。
「お、お風呂入ってくる！」
走っていく彼女を見送って、微笑んだ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年10月25日 23時
