チャンス ページ12
一定の距離を開けたまま、つばさは司咲の後ろを歩いた。手にも触れられない距離で、凛とした後ろ姿を見つめていた。
「追いかけるのはやめられないかな。俺は君が好きだから。君だけが大好きだから」
「私は大っ嫌いだわ」
「…うん。だから司咲ちゃんに惚れてもらえるように頑張るよ」
「惚れない」
「今はそれでいいよ。俺が勝手に頑張るから」
つばさの方が足が長いし、歩幅も大きいのに一定の距離を保ってくれていることに気がついた。司咲は歩きながら少しだけ後ろを向いた。
目が合って、微笑まれてすぐに前を向いた。
「鬱陶しいわ。ついて来ないで」
「じゃあ、抱きしめていい?」
「はぁ⁉︎なんでそうなるのよ!」
思わず振り向いて怒った。すぐに距離を詰めたつばさに両手を握られた。
「好きだから触れたいんだよ。……ダメ?」
「あなたに触れられたくないわ」
「……そっか。でも、さっきは奨悟たちに触れられて嬉しそうだった」
「…だから、何よ」
ズキっと胸が痛んだ。司咲の瞳がつばさから逸らされる。ため息をつく彼女の手を離して、つばさはその頬に触れた。逸らされた瞳を強引につばさに向けさせて髪を撫でた。
「こっち見て。俺だけを…」
パシっと手を払われた。頬から離れた両手。背を向ける彼女の背中を追いかけて、手を伸ばした。
「…好きだよ‼︎」
伸ばした手は届かなくて、髪をさらりと撫でただけだった。
「司咲ちゃんのことが大好き‼︎…奨悟たちに触れられて嬉しそうな顔をするから、嫉妬した‼︎」
よく通る声でそんなことを大きな声で言うから、嫌でも注目されてしまう。ただただ恥ずかしくて、司咲は走った。たくさんの目から逃れるように。つばさから逃げるように。
「司咲ちゃん‼︎俺、君に惚れてもらえるように頑張るから‼︎いい男になるから!だから、俺のこと見てて‼︎」
どこまで届いたのかは分からない。彼女の心をどのくらい揺らしたのかも分からない。博喜にフラれて、彼女が心を傾ける人がいない今がつばさにとってはチャンスなのだ。彼女の心を奪うために、なりふり構っていられない。
誰にも渡せない。誰かの手で幸せになんてなってほしくない。他の誰でもない、つばさが司咲を幸せにしたいのだ。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年10月25日 23時