ライバル ページ11
嫌い、と叫んで行ってしまった彼女の頬が赤く染まっていた気がして、つばさは頬を緩めた。
つばさを睨む瞳も、背を向けた際に翻った髪も全てが愛おしくて胸がきゅっと締め付けられた。
彼女に触れたくて、触れてはいつも睨まれる。その顔もかわいくて仕方がない。
追いかけるように歩くつばさの視界の中、司咲が奨悟を見つけて顔を綻ばせるのを見た。ライバルが多くて嫌になる。
他の男に触れられて嬉しそうな司咲が気に食わない。つばさには嫌そうな顔しかしないのに、どうしてと問い詰めたくなる。けれど、聞かなくても答えは分かっている。嫌いだと、そう言われるに決まってるのだ。
ため息をひとつ漏らして、つばさは司咲から目を逸らした。
嫉妬ばかりして彼女を困らせるつばさを好きになってくれるはずがない。
なんだって、大抵のことはうまくできていた。なのに、彼女のことになると途端に空回る。かっこ悪い姿ばかり見せてしまう。
いくつか恋をしてきているはずなのに、まるで初恋のように何もうまくいかない。怒らせてばかりで、落ち込む。怒らせたいわけではなくて、ただ笑顔を見たい。彼女の特別になりたい。つばさだけに笑ってほしい。それだけなのだ。なのに、嫉妬ばかりが暴走して彼女を傷つけてしまう。
彼女に視線を戻せば、奨悟と涼星と来夢に囲まれて笑っていた。人が増えていることにため息をついた。ここでの司咲はかなり愛されていて、放っておくと常に他の男に囲まれている。嬉しいことなのかもしれないが、つばさとしては気が気でない。博喜のように、彼女の心が誰かに傾かないとも限らないのだ。
奨悟に誘導されて、司咲の視線がつばさを捉えた。一瞬にして鼓動が早くなる。だけど、すぐに逸らされてしまった。
遠くから見ているだけのつばさでは彼女に何も言うことはできない。つばさは再び歩き出した。進行方向には司咲がいて、彼女は嫌そうな顔をしてくるりと背を向けた。
「…待って！」
思わず追いかけた。司咲を囲んでいた3人の横を通り過ぎる時、何故かガッツポーズでエールを送られた。
「司咲ちゃ…」
「来ないで！」
ぴたっと足が止まった。強い拒絶。彼女とつばさを隔てる不可視の壁は頑丈でいくら叩いても壊れない。
「…なんで、逃げるの？」
震える指を握り込んだ。
「あなたが追いかけてくるからよ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年10月25日 23時
