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つばさが立ち去って、司咲は首を傾げた。

「なんなの、一体」

ぼそりと呟いて、司咲はため息をついた。関わろうとしたのは彼で、近付こうとしてきていたはずなのに急に離れていく。その心理が分からない。

司咲は踵を返した。そろそろ休憩が明けるので戻らないといけない。モヤモヤを抱えながら歩いていると、声をかけられた。

「あ、司咲ちゃん。つばさ一緒じゃない?」

振り返るとそこには博喜がいた。

「博喜さん。さっきどっか走って行ったけど」

「あ、そうなんだ。つばさ、司咲ちゃんにくっついてると思ったんだけど」

博喜に話しかけられて、少しだけ嬉しいのは秘密だ。

「私はすごく迷惑なので、いないのはありがたいけど」

「つばさ泣くよ?」

「いいよ。私は崎山さんのこと好きじゃないから」

「かわいそうに」

見上げた博喜はどこか遠くを見ていた。彼がつばさの恋を応援しているのは司咲にもよく分かる。司咲を意識していない博喜が少しだけ不服なのだ。

「…博喜さんは、どうして崎山さんを応援するの」

「つばさはさ、本当に司咲ちゃんのこと好きなんだよ。ちょっと変だけど、いいやつだよ。司咲ちゃんのために見ず知らずの人を探してるよ。司咲ちゃんのご両親。そんなこと、好きな人のためじゃないとなかなかできないよ」

「…それは…。私が会いたいって言ったから…。そんな素振り全然ないのに。……本当に探してくれてるんだ…」

疑っていたわけではない。ただ、こんなに早く動き出してくれるとは思っていなかった。

「ねえ、どうしてそこまでするのか考えたことある?」

司咲はふるふると頭を横に振った。司咲はつばさには興味がないから、そんなこと考えもしなかった。

「つばさは本気だよ。あんなに一途で優しくて司咲ちゃんのことを想ってる人なかなかいないよ」

司咲は俯いた。聞いたのは司咲だ。なのにどうしてこんなに胸が痛むのかと、司咲は思った。

「きっと幸せにしてくれるよ。つばさと付き合ってあげてよ」

唇が震えた。好きな人に、博喜にだけはそんなこと言われたくなかった。

「嫌!」

溢れた涙が頬を伝った。目を見開く博喜に背を向けて司咲は駆け出した。

「司咲ちゃ…」

彼女の涙の理由が分からなくて、伸ばしかけた手はすとんと下ろされた。

「つばさじゃ、ダメなのかな?」

司咲と博喜の想いはどうしても交わらないらしい。

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年10月25日 23時

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