家族 ページ10
北海道、福岡、広島と公演は順調に進んだ。年内の公演は全て終わり、無事に東京に帰ってきた。
「司咲。今帰り？」
偶然出会った基裕に声をかけられて、司咲は笑顔で駆け寄った。
「基くん！」
瞳を輝かせる司咲は嬉しそうで、基裕は髪を撫でた。
「久しぶり、司咲。元気そうで良かった」
「久しぶり。基くんも元気そうで良かった！あのね、話したいこといっぱいあるの」
「うん。つばさと博喜も久しぶり」
2人に手をあげると、同じく手をあげて挨拶をした。
「良かったね、司咲ちゃん。もっくんに会いたいって言ってたもんね」
博喜の言葉に司咲は大きく頷いて、輝く笑顔を咲かせた。
「基くん、今年も初詣一緒に行ける？…不本意だけど崎山さんも一緒に」
「いいよ。行こう」
優しい言葉が嬉しくて、司咲は基裕に抱きついた。
「崎山さん来るなら博喜さんも来ない？」
少しだけ振り返って言う。つばさはそれは嫌なようで苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ごめん、年末年始は実家に帰ろうかなって思ってて」
両手を合わせる彼にハッとして司咲は基裕の胸に顔を押し付けた。失念していた。普通は年末年始は実家に帰るものだということを。
「ごめんなさい。そうよね、帰るよね…。実家があるんだもの」
とうに許しているし、諦めていることなのだが、他の人には家族がいるという現実に少しだけ寂しくなってしまう。
「泣かないの」
「泣いてないよ」
背中に回った基裕の手が優しく背中を撫でてくれた。
「崎山さんも帰っていいよ。実家、あるでしょ？」
いいことを思いついたと言わんばかりの笑顔で振り向いた司咲は提案したが、つばさもいい笑顔で首を横に振った。
「ううん。初詣の日は帰らないよ。絶対に」
強い言葉。司咲は舌打ちをして、ため息をついた。
「女の子が舌打ちしない」
基裕のチョップが頭に入った。
「うっ」
頭を押さえる司咲の瞳を覗き込んで、基裕は微笑んだ。
「司咲、お前はもうひとりじゃないだろ？血は繋がってないけど、俺も
清花とは、基裕の実の妹で司咲のことを可愛がってくれる姉のような存在。優しくて温かくて、大好きな人だ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
