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上着 ページ9

しばらく睨み合った。譲れない想いがぶつかって、また悲しくなった。他の男に恋をしている彼女をどうしたら振り向かせられるのか、分からない。

「離して」

「博喜のとこ行かない?」

「行くに決まってるでしょ」

「じゃあ、離さない」

抱きしめられて、司咲はその胸に両手を置いて、突っぱねた。

「上着返さないといけないの」

「だったら俺が代わりに返しておくよ」

「ふざけないで。博喜さんとの時間を邪魔しないで」

「するよ。好きなんだよ」

「私だって博喜さんが好きなの」

衣装を着ているから、突き飛ばすわけにもいかなくて、司咲は困った。背中に回っている腕が、嫌なのに泣きそうなほどの切なさを伝えてくる。

同じだった。つばさも司咲も恋に悩んでいる。片想い中で、脈なしだって分かっているから切ない。

俯いて、司咲は目元を押さえた。

「……あ。ごめん!」

慌てて離すつばさに司咲はぶんぶんと首を横に振った。座り込んで、ただ胸を揺さぶられるものに任せて泣いた。

髪を撫でるつばさの手にまた涙が溢れた。

「……ごめん。また泣かせちゃった」

「…そうじゃない。……私なんかより、もっと……いい人たくさんいるでしょ…。あなたは…不本意だけど優しいし…かっこいいし…背も高いし……。捨て子の私なんかよりずっと…いい人がいるはずよ」

「俺は捨て子の司咲ちゃんがいいの。君が好きなの」

つばさはそっと頬に手を伸ばした。溢れる涙を拭ってその瞳に優しく笑いかけた。

「泣き虫。でも、嬉しい。司咲ちゃんにはそう見えるんだ」

「…ばかじゃないの」

俯いた司咲の頬が赤く染まっていくのをつばさは見逃さなかった。みるみる笑顔になったつばさは両手で司咲の頬を包み込んだ。親指で涙を拭うと、そのかわいい瞳を見つめた。

「ばかでもいいよ。司咲ちゃんが好きだよ」

伝えたところで、首を縦に振ってくれることはない。それでもやはり、想いは溢れて止まらない。

「博喜さんのところに行かせて」

立ち上がりかけた彼女の手首をつばさは掴んだ。

「嫌だよ。絶対、嫌」

イライラと、フラストレーションが溜まってくる。

「最低!」

キッと睨みつけて、司咲は博喜の上着をその胸に押し付けた。

「返しといて」

「俺のいる?」

「いらない!」

ぷいと顔を逸らして、司咲は逃げるようにその場を後にした。

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年8月5日 22時

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