クッキー ページ50
「なにこれ」
何かを握らされて、手を開くと手のひらサイズの包みが乗っていた。
「司咲ちゃんの胃袋掴もう作戦」
「それ、私に言ってる時点でアウトだから」
「手作りだけど、お菓子なら気軽に受け取ってもらえるかなって思ったんだけど…」
つばさとは目が合わない。司咲はずっとその包みを凝視していた。中には綺麗な丸型のいろんな模様のクッキーが入っていた。
「いいの？」
司咲の瞳がつばさを見上げた。
「うん。司咲ちゃんにもらってほしい」
司咲はその包みをそっと両手で包み込んだ。
「嬉しい。ありがとう」
「えっ」
「…何よ」
「いや。突き返されると思ったから…」
「クッキーに罪はないわよ。…クッキー好きなの」
「…そ、か…」
つばさは司咲の頬に触れた。嬉しそうに微笑む司咲の顔を覗き込んでつばさは微笑んだ。
「そっか。いいこと聞いた」
「いちいち触らないで」
「好きだから、触れたくなるんだよ」
司咲はつばさの手を振り払おうとした。けれど、それよりも早く抱き寄せられた。
「大好き」
「クッキー潰れる」
ゆるく覆った司咲の手がクッキーを守っていた。そのクッキーのように、つばさも包まれたいと思った。司咲の腕に抱きしめられたい。クッキーに嫉妬するなんてバカな話だと、つばさは顔を司咲の髪に埋めた。
「背中に手を回してくれれば潰れないよ」
「そんなことすると思う？」
「思わない」
体を離して、クッキーを持つ手に触れた。
「本当、つれないよね。司咲ちゃんはずっと。出会った時から。……そんな君も大好きだけど」
つばさは司咲の片手を両手で握った。まるで大切な宝物を扱うように、優しく。
「もっと教えて。司咲ちゃんのこと。他には何が好き？何が嫌い？」
「…博喜さんが好き」
「それは知ってる。改めて言わないで」
不服そうな顔をするつばさは司咲を抱きしめた。知っているけれど、嫉妬は抑えられない。
「ねえ、教えて。俺を好きになる可能性は万にひとつもないの？」
「うん」
即答だった。つばさは司咲を解放すると、一歩下がった。
「そ、か…」
俯いた顔はどんな表情をしているのか分からない。
「…クッキー、ちゃんと食べてね」
「え、うん」
「でも、大好き。またね」
背を向けた彼は走り去って行った。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
