熱視線 ページ49
「……もうやめて…」
消え入りそうな声でそう言った。頬の熱が下がらずに下を向いた時、誰かの靴が視界に入った。見上げる間もなく司咲は手を掴まれて引っ張り上げられた。
「わっ」
「2人して司咲ちゃんいじめないで」
勢い余って胸に飛び込んだ司咲は両手で顔が激突するのを防いだ。視界が緑色に染まった。
「ヒーローの登場だ」
「いじめてないよ」
にやにやと頬を緩める博喜に少しだけ苛立った。
「…離して」
かわいくて仕方がない声が聞こえて、珍しく素直に解放した。
「じゃ、俺らは行くな」
そう言って潔く去っていく彼らに伸ばしかけた手は横から掴まれた。
「追いかけないで」
見上げると、不機嫌な目に見つめられた。
「バカ」
目を逸らすのに、手は離してくれない。その一言に形容しがたい感情が込められている気がした。
「崎山さん」
じっと大きな瞳に見つめられた。熱のこもった瞳が揺れていた。
「ありがとう」
司咲はまだ少しだけ赤い頬を両手で覆った。
「助かった。あの2人、趣味悪いわ」
「…本当だよ」
両手で顔を仰ぐ司咲の頬に優しく触れた。
「こんなかわいい顔、誰にも見せたくないのに。俺だけ知っていればいいのに」
「…彼氏みたいなこと言わないで」
「司咲ちゃんが彼女だったら、キスしてるよ」
つばさの熱視線が司咲に突き刺さる。ただ純粋につばさは司咲だけを想っている。
「…付き合ってほしい。でも、司咲ちゃんは博喜が好きだから…」
小さく頷いた。頬の熱が引いた頃、つばさは司咲を腕の中に抱き寄せた。
「俺、やっぱり好きだから。司咲ちゃんが大好きだから。…覚悟しておいて」
「…なにを」
「俺に惚れる覚悟」
肩を押して、つばさは司咲の顔を覗き込んで微笑んだ。その瞳に溢れる恋情が司咲の瞳を揺らした。
「…惚れないわよ」
動揺する司咲の頬につばさは唇を押し当てた。
「ちょっ」
胸を押すと離れたつばさの頬は薄く色づいていた。
「大好きだよ」
髪を一房手に取って、つばさはそれにもキスをした。司咲の顔を見て、満足そうに笑った。
赤くなった顔を隠すように俯いた司咲はつばさの胸をどん、と叩いた。
「…嫌い」
いつになく弱々しい『嫌い』だった。髪をつばさの手から抜き取って、司咲は背を向けた。
「司咲ちゃん」
その背中に声をかけた。振り向いた司咲の手を取った。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
