ハート ページ46
用事があるらしく、ホテルの前を通り過ぎて行った奨悟を司咲は見つめていた。つばさの服を掴む司咲はテンションが高かった。
「奨悟さんが手振ってくれた！」
「うん、そうだね」
「あの奨悟さんとお近付きになれたなんて、信じられない…」
つばさへの塩対応とは違い、嬉しそうな笑顔だった。
「奨悟さん、ほんとにかっこいい！」
CDを買って、ミュージックビデオの中の奨悟をずっと見ていた。今もまだ、奨悟のいちファンだから彼の姿を見る度に嬉しくなっている。博喜へのものとはまた違った感情。
「…俺は？」
つばさは服を掴む司咲の手をぎゅっと握った。意識されていないのが悲しかった。そもそも、出会った時司咲はつばさのことを知らなかった。
「俺は？」
もう一度問いかけた。ただ妬いているだけだ。つばさが望む解答が返ってくるわけがないと分かっている。それでも、少しだけ期待してしまう。
「……奨悟や博喜に、俺は何ひとつ敵わないの？」
「うん」
頷いた司咲にずきりと胸が痛んだ。
「…好きな人でもファンでもないから。でも、崎山さんを応援しているファンの方はかっこいいと思っているわよ」
「他の誰かじゃなくて、司咲ちゃんがどう思っているのか知りたい」
「……まあ」
司咲の瞳がつばさを見つめた。黒曜の瞳と目があってつばさは胸を高鳴らせた。頬がじんわりと赤くなっていくのが分かる。
司咲の手が引き抜かれて、つばさの頬に伸ばされる。分かりやすく照れるつばさの頬を摘んだ。
「何照れてんのよ、バカ」
手を離した司咲をつばさは赤い顔で見つめた。
「好き、だから。そんなに見つめられると照れる」
つばさの手が司咲が触れた場所を覆った。まるで温もりを逃さないようにするかのよう。
「大好きなんだよ」
この熱が彼女に伝染しないかと見つめるが、彼女の頬が赤くなることはなかった。
「バカじゃないの」
司咲の細い指がつばさの胸を弱く押した。
「黙っていればかっこいいのに」
「司咲ちゃん…」
どくん、と胸が強く脈打った。彼女の口が紡いだ『かっこいい』の一言が嬉しすぎた。唇が弧を描いて、嬉しそうに頬を緩めた。司咲の左手を両手で握った。
「ねえ、大好きだよ」
「離して」
つばさの瞳の奥にハートが見えて、司咲は手を引こうとした。離す気のないつばさは更に強く握った。
「嫌だよ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
