ファン ページ45
小さく吹き出す声が聞こえた。目の前の彼女が俯いて肩を震わせていた。つばさは司咲の手を離すと、両手で頬を包んで上を向かせた。つばさが見たどの表情よりも柔らかくて、かわいい笑顔だった。つられるように、つばさも笑顔になっていく。
「バカじゃないの。必死すぎ」
「司咲ちゃんの笑顔のためなら、なんだってするよ」
「バーカ」
頬を包むつばさの手を払って、司咲は背を向けた。
「温泉、楽しみにしてるから。博喜さん絶対誘ってよ」
「……!うん!約束する!」
去って行く司咲の後ろ姿は他のどんな女よりもずっと綺麗で、やはり大好きだった。
「…かわいい」
溢れた言葉は司咲には届かない。見つめていた後ろ姿が不意に振り返った。戻ってきた司咲がつばさの袖を掴んだ。
「一回だけならデートしてあげてもいいよ」
「えっ」
「何よ。嫌ならいいわよ」
面食らったような顔のつばさにそう言うと、袖を握った手を上から握られた。
「嫌なわけないでしょ。めちゃくちゃ嬉しい!…でも、どうして?あんなに嫌がってたのに」
「お父さんとお母さん、探してくれるんでしょ。その、お礼よ。私1人では探す決断ができなかったから」
抱きしめられた。強く強く、司咲の体につばさの腕が絡みついた。
「は、離して」
「嬉しい!大好き!」
音を立てて頬にキスをすると、司咲の顔が赤く染まっていく。そんな彼女の顔を見つめて、つばさは司咲の頬を包んだ。
「かわいい。キスしたい」
「…キスしたらデートなしだから」
「…分かった」
渋々と司咲の頬からつばさの手が離れていった。
「司咲ちゃん、大好きだよ」
つばさの瞳は司咲だけを見つめている。頬が緩み、司咲の視線を独り占めしたくなる。
「……あ」
つばさの言葉には何も答えずに、司咲は彼の横を通り過ぎた。振り向いたつばさは司咲の視線の先を見て、また嫉妬する。
つばさは司咲の手を取った。窓の向こうに奨悟を見つけたようで、嬉しそうな笑顔で彼を見ていた。手を振られて司咲は嬉しそうに手を振り返していた。
「…奨悟さん」
司咲はつばさの手を振り払って腕を叩いた。
「痛っ」
「かっこいい!」
「…そうだね」
きゃー、と頬を覆った。ただのファンだと分かっているけれど、司咲が誰かを見て歓喜するのはつばさにとっては面白くない。
大好きな司咲の手が腕に触れてドキッと胸が弾んだ。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年8月5日 22時