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小さく吹き出す声が聞こえた。目の前の彼女が俯いて肩を震わせていた。つばさは司咲の手を離すと、両手で頬を包んで上を向かせた。つばさが見たどの表情よりも柔らかくて、かわいい笑顔だった。つられるように、つばさも笑顔になっていく。

「バカじゃないの。必死すぎ」

「司咲ちゃんの笑顔のためなら、なんだってするよ」

「バーカ」

頬を包むつばさの手を払って、司咲は背を向けた。

「温泉、楽しみにしてるから。博喜さん絶対誘ってよ」

「……!うん!約束する!」

去って行く司咲の後ろ姿は他のどんな女よりもずっと綺麗で、やはり大好きだった。

「…かわいい」

溢れた言葉は司咲には届かない。見つめていた後ろ姿が不意に振り返った。戻ってきた司咲がつばさの袖を掴んだ。

「一回だけならデートしてあげてもいいよ」

「えっ」

「何よ。嫌ならいいわよ」

面食らったような顔のつばさにそう言うと、袖を握った手を上から握られた。

「嫌なわけないでしょ。めちゃくちゃ嬉しい!…でも、どうして?あんなに嫌がってたのに」

「お父さんとお母さん、探してくれるんでしょ。その、お礼よ。私1人では探す決断ができなかったから」

抱きしめられた。強く強く、司咲の体につばさの腕が絡みついた。

「は、離して」

「嬉しい!大好き!」

音を立てて頬にキスをすると、司咲の顔が赤く染まっていく。そんな彼女の顔を見つめて、つばさは司咲の頬を包んだ。

「かわいい。キスしたい」

「…キスしたらデートなしだから」

「…分かった」

渋々と司咲の頬からつばさの手が離れていった。

「司咲ちゃん、大好きだよ」

つばさの瞳は司咲だけを見つめている。頬が緩み、司咲の視線を独り占めしたくなる。

「……あ」

つばさの言葉には何も答えずに、司咲は彼の横を通り過ぎた。振り向いたつばさは司咲の視線の先を見て、また嫉妬する。

つばさは司咲の手を取った。窓の向こうに奨悟を見つけたようで、嬉しそうな笑顔で彼を見ていた。手を振られて司咲は嬉しそうに手を振り返していた。

「…奨悟さん」

司咲はつばさの手を振り払って腕を叩いた。

「痛っ」

「かっこいい!」

「…そうだね」

きゃー、と頬を覆った。ただのファンだと分かっているけれど、司咲が誰かを見て歓喜するのはつばさにとっては面白くない。

大好きな司咲の手が腕に触れてドキッと胸が弾んだ。

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年8月5日 22時

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