夕焼け ページ41
「うん、分かった」
「ありがとう」
来夢の背が遠ざかって行く。本当は司咲が博喜の側に行きたかった。足が博喜の方へ行きそうになるのをつばさに手を取られて阻止された。
掴まれた手を押しても引いても離してはくれなくて、司咲はため息をついた。
「離して」
「絶対嫌だ」
女の司咲ではつばさの力には敵わなくて、睨んだ。
「関わらない方がいいなんて言わないで」
傷ついたように訴えるつばさから司咲は顔を背けた。
「俺のこと見てよ。…大好き、なんだよ」
「そんな想い、早く捨てればいい。そんなに傷つくこともないのに」
「簡単に捨てられないよ。捨てたく、ない」
強く握られた手が痛くなってきてつばさの腕を押した。
「痛い」
「…ごめん」
慌てて緩めたつばさの手から司咲は手を引き抜いた。
司咲の唇が言葉を紡ぐたびに塞ぎたくなる。どれもがつばさの心を傷つけるものだったから。
「…どうして？」
つばさの心が泣いていた。
「どうしてそんなに嫌うの？」
司咲がつばさに向けるものは冷え切っていた。他の誰よりも冷たくて、ふと見かける彼女は誰かにかわいく笑いかけているから、その誰かに嫉妬する。
「……崎山さんが私に恋心を抱いているから」
「……嫌わないで」
「諦めてくれるなら」
「それは、無理」
司咲はつばさにとって『女』だから、今更そういう目で見ないなんてできない。
「司咲ちゃん。…好き、だよ」
手を握った。司咲のためにできることはなんでもしたいと思う。だけど、どうしても恋を諦めることだけはできそうにない。
「司咲ちゃんの笑顔が見たいよ」
「何が面白くて笑えばいいのよ。もう構わないでよ」
向けられるものは笑顔ではなく、嫌そうに歪めた顔だった。手を振り払われて、好きな人が歩いていく。
空がオレンジ色に染まっていく頃、たどり着いたホテルの玄関先で空を見上げた。
「夕焼け、好きだよね」
空を見つめている司咲の横顔を見つめた。
「…別に」
ふいと顔を逸らした。夕焼けは嫌いになれない。だからといって、すごく好きなわけでもなかった。
「いつもそう言うよね」
「別に好きじゃないわよ。ただ嫌いにはなれないだけ」
滲んだ涙を拭った。そう言いながら、夕焼けを見るのは好きだった。好きだけど、苦しいのだ。
「夕焼けは夜を連れてくるのよ。夜は、嫌いよ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
