相反するもの ページ40
司咲は愛知の地に降り立った。
「あ、来夢くん」
「あれ、司咲ちゃん。同じ電車だったんだ」
「そうみたい。偶然ね」
駅のホームで見慣れた姿を見つけて、声をかけた。笑顔で来夢に手を振れば、彼も手を振り返してくれて司咲は嬉しくなった。
「つばささんにもそうやって笑ってあげればいいのに」
「それはできない」
きっぱりと言う司咲に来夢は小さく笑った。
「そんなに嫌い？」
「…そうね…。本当はもう嫌いではないのよ。でも、崎山さんと私の気持ちは相反するものだから」
「うん、それはなんとなく分かる」
2人を見ていれば、すぐに分かること。つばさの恋は今の段階では叶わない。
「私は崎山さんと友だちになりたかった。でも、それは崎山さんが望んでないでしょ？だから、本当はもう関わらない方がいいのよ」
絶対につばさは嫌がるだろうけど。それに、司咲はつばさから逃れられないだろう。基裕と関わっているうちは。
「だから、私は崎山さんのことが嫌いなの」
言いながら、司咲は微笑んだ。その後ろにひとつの影が見えた。通り過ぎて行ったつばさの横顔が傷ついたようで、瞳がうっすらと潤んでいた。
ぴたりと足が止まった。やはり無視はできないようで、大きな体を小さく震わせていた。こんな人混みの中でも見つけることができるのだから、彼の想いは本物なのだろうと、来夢は思う。
その横を全く気付かない司咲が通り過ぎようとした。その手を掴まれて、司咲はびっくりして振り返った。
「…びっくりした」
「ごめんね。…でも」
どんなに酷く傷つけられても、つばさの恋は変わらない。何度も叩かれながら、空回りながらつばさはずっと司咲だけを想ってきた。
「関わらないなんて無理。司咲ちゃんに会えないなんて絶対嫌！」
「聞いてたの？最低」
掴まれた手を振り払った。つばさの手が小さく震えた。
「ごめん、友だちになりたかったってところから聞こえてた」
スタスタと歩いて行く司咲の手を掴んだ。
「こっち向いて」
「司咲ちゃん、俺お邪魔みたいだし先に行くね」
「あ、待って、来夢くん」
つばさと2人きりになりたくないけれど、引き留めるのは来夢がかわいそうだった。つばさの手を振り払って来夢を呼びとめた。先程見えた長身に目を向けた。
「博喜さんが1人になってるみたい。私は解放してもらえなさそうだから行ってあげて」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
