他の人 ページ36
朝、ばったり会った彼女に強く睨まれた。
「おはよ」
それでも小さな声で挨拶をしてくる彼女に胸が高鳴った。
「おはよう！」
嬉しそうに笑うつばさから目を逸らして、歩き去ろうとする司咲の腕を掴んだ。
「ご飯食べた？」
ぐいっとつばさの体を押して距離を取ると、ふいと顔を逸らした。
「今日は博喜さんを誘うの。崎山さんはどっか行ってよ」
博喜と2人きりになりたいと、空気で伝えてくる彼女を許すわけにはいかない。
「嫌だ」
2人きりになんて、させたくない。彼女の恋は応援できない。行かせない、と抱きしめた。
「博喜と2人きりになんてさせない」
今はまだ髪には何もついていなかった。贈ったバレッタは使ってはくれないだろうけれど。
「離して」
不機嫌そうな声。それでも、離せはしない。
「好きだよ」
耳元に囁きかけると、肩がびくりと跳ねた。
「諦めてって、何度も…っ‼︎」
胸を叩く彼女の頬が赤くなっている気がして、つばさは司咲の肩を掴んだ。嬉しくなって微笑むと睨みつけられた。
「かわいい」
頬に触れようと伸ばした手は払われた。
「触らないで」
ずきりと胸が痛んだ。それでも、想いは強く変わらない。
「それは無理」
悲しそうな笑顔でそう言って、つばさは逃げようとする司咲の頬に触れた。
「好き」
今はつばさの方を向いていなくても、いつか振り向いてほしい。
「ねぇ、俺のこと好きになって」
「天地がひっくり返ってもありえない」
彼女の背後から彼女の想い人が歩いてくるのが見えて、つばさは博喜を司咲の視界から隠すように目を覆った。片腕で抱き寄せた彼女が嫌そうに手を外そうとするが、今は解放してあげられない。
つばさに気づきながらも空気を読んだ彼が通り過ぎてからやっと手を離した。
「何するのよ」
「司咲ちゃんは俺だけ見ていればいい。俺が絶対に守ってあげる」
「守られるほど弱くないわよ」
そっぽを向いた彼女の頬に口付けた。
「ちょっ」
「好きだよ」
「嫌いっ！」
強く、つばさを睨んだ。どんなに距離を取ろうとしても、彼が許してくれない。
それがただただ迷惑だった。
「もう、諦めて。他の人探してよ」
「絶対嫌だ。誰でもいいわけじゃないの！」
痛んだ胸が好きだと叫ぶ。恋の諦め方なんてもう、忘れてしまった。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
