冷えピタ ページ35
「つばさ、どうした。頬真っ赤になってんで」
「ん？」
ばったりと出会ったのは鳥越裕貴だった。指摘されたのは先程司咲に叩かれた場所。
「…ああ。自業自得だから気にしないで」
「司咲ちゃん関係？」
「…まあ、うん」
「何したん？」
「…深くは聞かないで。ただ、俺のせいで怒らせて泣かせちゃった」
「そう言うなら聞かんけど」
つばさの顔を見上げて、裕貴は腕を掴まえて引っ張った。
「早よ冷やし」
「うん。氷貰いに行こうと思って」
「それより冷えピタの方がええ。俺持ってるから1枚持ってき」
「ありがとう。……でも」
「ええから」
つばさを部屋に連れて行って座らせる。カバンから冷えピタを1枚出して、裕貴はつばさに渡した。礼を言ってそれを貼るつばさのテンションが低い。
「どうしてもあの子なん？」
「え？」
「司咲ちゃんのことや。あの子やなくてもいい人沢山いると思うで」
俯いたつばさの手が冷えピタの上から赤みに触れた。誰かを想う優しい顔で。
「俺は別に、恋がしたいわけじゃない。司咲ちゃんが好きなだけ。ただ、それだけだよ」
ただ、そんな彼女の心には手を伸ばしても到底届かなくて、心を痛める。彼女が一心に見つめているのは博喜だから。触れた唇は柔らかくて、「好き」が募っていく。彼女が笑うたびに、どうしても。
司咲に鷲掴みにされたつばさの心はもう、誰にも傾かない。
「そのせいで傷ついても？」
「変わらないよ。俺は司咲ちゃんが好きだから。またアタックするよ」
「悲しいほどに一途や」
どんなに想っても報われない恋もある。それでも、好きでい続けたい。伝え続けたい。せめて、彼女が誰かのものになるまでは。
でも、願わくは。
「俺のこと、好きになってくれないかな…」
そうしたら、絶対に離さない。彼女をつばさの全てで幸せにするのに。
終止符はまだ打てない。
「俺はこの痛みだって、愛している」
「重症やな」
カラカラと笑う裕貴につばさもまた笑った。
「重症なのは俺が1番分かってるよ」
想えば想うほど、彼女の心が離れていくから余計に悲しくなる。彼女の博喜への想いが大きくなっていくから、苦しい。もうずっと、生き地獄のように他の男を想う司咲に恋焦がれてきた。今更後には引けないし、引く気もない。つばさの心はもうずっと、司咲しか見ていない。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
