大っ嫌い ページ34
手当てが終わり、腕をしまった彼女をつばさは強く抱き寄せた。
「きゃっ」
つばさの胸に頬をぶつけた彼女はその胸に右手を置いて突っぱねた。
「帰る。離して」
「好き」
背中に回った腕が強く司咲を抱きしめて離そうとはしなかった。
「私は大嫌いよ」
抱きしめるつばさと、その胸を突っぱねる司咲。無言で争った。
不意に離れたかと思ったら、唇に温かいものが触れて司咲は目を見開いた。
パン、と小気味良い音がした。一瞬後に右頬がジンジンと痛みだした。
「最低!大っ嫌い!」
帰ろうとする彼女の背中を抱きしめた。
「…ごめん。行かないで」
「離して!」
「ごめん!」
好きな女の唇に触れてしまったこと、その結果怒らせてしまったこと。申し訳ないという思いはあるものの後悔はしていなかった。
「お願い。行かないで…。10分でいいから」
「嫌よ!どうせまたキスするんでしょ!」
腕の中で暴れる彼女がかなり怒っている。
「ごめん。もうしない」
「嘘よ!そう言ってこの前だって!」
腕を振り払われて司咲が振り向いた。その瞳から溢れた涙。拭おうと伸ばした手を叩かれた。
彼女が腕の傷を負った日に、触れないと言いながら彼女に触れてしまったことを思い出した。
「大っ嫌い‼︎」
頬に涙が幾筋もの線を作った。
「崎山さんなんて大っ嫌い‼︎もう知らない‼︎」
彼女の長い髪がふわりと広がった。シャンプーのいい匂いがした。伸ばした手は彼女の服にさえ触れられなかった。
何度も繰り返して、何度も叩かれて、何度も泣かしてしまう。感情ばかり先走ってから回っている。彼女だけを愛している。ただそれだけなのに。
「大っ嫌い、か……」
何度も浴びせられた言葉に何度も繰り返し傷ついている。
「大好き、なのになぁ…」
キスの感触ばかりが唇に残っていて、彼女を傷つけてばかりの自分に嫌気がした。
好きだと想えば想うほど傷つけてしまう現実に涙が溢れそうだった。
『また顔叩いちゃった。ごめんね。手当てありがとう』
届いたメッセージに顔を覆った。どこまでも優しい。その言葉にまた期待する。同時に傷つけたことへの罪悪感がつばさを苦しめた。
『俺が悪いからいいよ。ごめんね』
そう送れば彼女から返信はもう来ない。いつも通り。彼女からメッセージが届くのは決まって叩かれた後だけなのだ。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年8月5日 22時