警戒心 ページ33
仕舞い込まれてしまったとしても、彼女の部屋につばさの贈り物がある。それだけで今は充分だった。
「……バカみたい」
ふと視界の端に映った巨躯。司咲は耳を塞いでしゃがみ込んだ。霊の耳障りな甲高い声。そんな声も、姿もつばさには聞こえないし、視えない。
「司咲ちゃん？」
「羨ましい。崎山さんが」
ぷいっと背を向けた彼女が立ち上がって歩き出したのを見て、つばさは慌てて追いかけた。
「待って」
「嫌よ」
「帰ったら傷の手当てしないとね」
隣を歩く呑気なつばさを見上げて、司咲はため息をついた。すぐに着いたホテル。司咲は瑞稀と朱音と3人部屋を使っている。
「どこまで着いてくるの。もういいでしょ。自分の部屋に戻って」
くるりとつばさを振り返った司咲が睨みつけた。
「怪我の手当てしたら戻るよ」
「自分でできるわよ。そのうち瑞稀さんと朱音さんも戻ってくるし」
「心配なの」
両手で頬を覆ってぐっと彼女を壁に押し付けた。
「このままキスされたくなかったら手当てさせて。部屋に入れろとかは言わないから。なんなら俺の部屋でいいから」
「最っ低」
キッと睨まれて、司咲は右腕一本でつばさを押した。
「ここで待ってて」
「うん」
その言葉を聞かずに司咲は自分の部屋に駆け込んだ。
「ほんと最低！」
イライラが治まらなくて、司咲は思わず左手で布団を叩いてしまった。
「い……っ‼︎」
蹲って、左の袖を肩まで捲ると絆創膏がもう血で赤黒くなっていた。
「お風呂入ろう」
つばさなんかは待たせておけばいい、と司咲はお風呂に入る準備をしてシャワールームに入った。傷にお湯がしみて、痛みに顔を歪めた。
「ねえ、司咲ちゃん。警戒心とかないの？」
パジャマでつばさのところに戻れば、部屋に連れ込まれて至近距離で見下ろされた。
「はあ？崎山さんに対しては警戒心しかないんだけど」
パジャマの上に羽織ったブランケットをぎゅっと握るとつばさのため息が聞こえた。
「パジャマで来ないで。襲いたくなるから」
「じゃあ、帰る」
「待って」
帰ろうと動き出す彼女を壁に押さえつけて阻止した。
「傷見せて」
こくりと頷いた彼女を座らせて、袖を捲った。まだジュクジュクと傷は乾いていなく、見ているだけで痛そうだった。
消毒して、軟膏を塗って大きめの絆創膏を貼った。
「ありがとう」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
