贈り物 ページ32
ぷいっと顔を逸らして手を引き抜こうとする司咲の手をつばさは離そうとしなかった。
「やっぱり好き」
するりと指を絡めて握り込んだつばさは司咲の頬に触れた。
「大好きだよ」
頬を染めるつばさを司咲はキッと睨みつけた。
「離して」
「嫌だ」
「あなたなんか嫌い」
鋭利な刃物よりもその言葉の方が切れ味が抜群だった。それでも、つばさは決して諦めない。
「俺は愛している」
「…気持ち悪い。やめてくれない？」
またぐさりと胸に突き刺さる言葉。彼女の心を射止める有効な方法なんて分からなくて、ただ愛を伝え続ける。冷たい視線が突き刺さって、それでも今は司咲の視界につばさしか映っていないと思うと嬉しかった。
彼女の髪に挿さる簪。緑色のそれが目に入って、つばさはそれを引き抜いた。
「ちょっと…っ！」
それを追うように左手を伸ばして司咲は顔を歪めた。
「……簪の方がいい？」
「はぁ？」
「簪なら貰ってくれる？」
「嫌よ。あなたからの贈り物なんて、絶対嫌」
「どうして」
「嫌いだからに決まってるでしょ。返して」
握られた手を振り払って、右手を出せば簪を手のひらに置かれた。それで髪をハーフアップにまとめた。
「これ。俺には使えないし、捨てられない。嫌だったら捨てていいから」
右手を取られて乗せられたのは前に受け取るのを拒否したバレッタだった。
「他の人にあげてよ」
「嫌だ。これは司咲ちゃんに、って買ったの。誰にもあげたくない」
「私に渡されたって困る」
「捨てていいから」
バレッタを包むように握らされて、困った。
「私だって、捨てられないよ」
握らされた手を開こうとするが、上からつばさの手に押さえつけられていて開けない。
「返す」
「嫌だ。貰って」
「あなたからの贈り物なんていらない」
返したい司咲と受け取ってほしいつばさ。少しの間、睨み合った。
「いらない」
突き出された司咲の手をつばさはやんわりと押し戻した。
「そんなこと言わないで、受け取って。捨てていいから」
「……分かったわよ」
埒があかない、と渋々ながら受け取って、司咲は鞄の中にバレッタをしまった。
「ありがと」
小さな声で言った彼女につばさは満面の笑みを向けた。
「絶対つけないから」
「それでもいいよ。それでも嬉しい」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
