神社 ページ31
「つばさ、後よろしくね」
「うん。ありがとう、ひろくん」
司咲が帰ってくる姿が見えた。つばさが司咲のことを想っていることを知る宏文だから、少しだけ気を遣った。つばさにとってはアタックするチャンスなのだ。
背を向けた宏文を見送ると、つばさは司咲を待った。
「きゃっ⁉︎」
突然、彼女が何かに躓いた。つばさの腕に抱き留められた。咄嗟に司咲の手がつばさの服を掴んでいて、分かりやすいほどに胸が高鳴った。
「大丈夫？」
頷いた彼女が恐る恐る振り返った。躓いた場所。そこを見て、顔を強張らせた。つばさの腕を握る司咲の手が震えていた。
「司咲ちゃん？」
「……神社」
顔色が良くない。司咲はつばさを見上げて、縋るように言葉を紡いだ。
「神社、どこ…っ？」
「こっち」
手を掴んで、つばさは走り出した。つばさは仕事でさいたまスーパーアリーナは何度か来たことある。神社が好きなつばさはこの辺の神社の位置も把握しているのだ。
震える手を握り直して、徒歩4分のところにある神明神社に駆け込んだ。
振り返った司咲の視線の先には必死に結界を叩く霊の姿があった。
『視えているなら、体を貸せ‼︎』
そう喚きながらバンバン叩く霊から視線を外して、耳を塞いで座り込んだ。
つばさは、震える司咲の髪を撫でながら、落ち着くのを待った。
「……
ぼそりと呟いた神の名前。
「……ですよね？」
『いかにも』
男神は司咲の側に降り立った。
『優しい彼氏ではないか』
「彼氏、じゃないです」
『そうか。残念』
つばさに手を取られ優しくさすられて、少しずつ震えが落ち着いてきた。
『そなたのような人間がいないわけではない。…ただあまりに力が強すぎる』
見上げた神は司咲の額に手を当てた。
『あの安倍晴明の再来、いやもっと強い力を持っているかもしれない』
「私は、どうすれば…」
『どうすることもできない。目を合わせるなとしか言えんな』
「…わ、かりました」
『まあ、ゆっくりしていけ』
「……はい」
神が社に戻って行くのを見送って、司咲はつばさの手から手を抜いた。
「…ありがと」
その手をぎゅっと握られて司咲はつばさをじっと見た。
「嬉しい」
「はい？」
「俺に縋ってくれた司咲ちゃん、かわいかった」
「…そんなんじゃないわよ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
