左腕 ページ30
不意に左腕が強く痛んで、司咲は持っていた籠を落とした。中には今日使った衣装が入っていて、中身が全て出てしまった。周りに誰もいないことにホッとして少しだけしゃがみ込んだ。確認するが、白い服に血はついていなかった。傷が開いたわけではなくて良かったが、ズキズキと痛みで手が痺れてきた。
「司咲ちゃん？大丈夫？」
見上げると、心配そうな朱音がいて司咲は慌てて立ち上がった。
「すみません、すぐ……っ！」
衣装を集めて入れようとした司咲の腕がまた痛んで、顔を顰めた。
「司咲ちゃん。私やるから、今日はもう帰って」
「でも！」
「もう時間過ぎてるし、明日に響いたら困るでしょ？瑞稀には私から言っておくから」
「……すみません」
「…大丈夫？」
心配そうに顔を覗き込む朱音に司咲は額に冷や汗を浮かべながら微笑んだ。
「ちょっと切っただけなので、大丈夫です。一応医者にも行きましたけど、大したことないって言われてますし」
「ならいいけど…」
朱音はくるりと周りを見渡して、見つけた人に声をかけていた。
「崎山さん、荒木さん。今帰りですか？」
「うん。どうかしたの？」
「司咲ちゃん、一緒に連れて帰ってくれませんか？あまり調子良くなさそうですし、1人で帰らせるのは心配で…」
「いいよ。任せて」
微笑んで頷くと、つばさの手が司咲の背中を優しく撫でた。。
「大丈夫？」
優しく声をかけるが返事はない。ただ無言で頷くだけだった。
痛みに滲んだ涙を見られたくなくて、顔を両手で隠す司咲の側にしゃがみ込んだ宏文にも声をかけられた。
「体調悪い？」
ふるふると首を横に振る司咲の左腕をつばさの指が触れた。
「いったい！」
睨みつけて、右手でつばさの腕を叩いた司咲は左腕を押さえた。涙が滲む目元を優しく拭ったつばさは司咲に笑いかけた。
「送るよ」
「いい。1人で帰れる」
「司咲ちゃん。今日は2人と一緒に帰って」
朱音の言葉に司咲はぐっと言葉に詰まって、頷いた。
「今日だけ…」
「じゃあ、司咲ちゃん。また明日ね！ゆっくり休んでね」
「あ、はい。すみません」
朱音を見送って、司咲は荷物を取りに行った。
渋々だが、頷いてくれた彼女がやはり愛おしくてつばさの胸はどうしようもなく締め付けられた。愛してしまったらもう、抜け出せない沼のように深く沈んでいく。やはりつばさは司咲が好きだ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
