笑顔 ページ29
「いいよ。行ってきて」
きっと終始笑顔なのだろう。つばさには向けてくれないかわいい笑顔で『博喜さん』と言って嬉しそうな顔をするのだ。博喜のためだけにオシャレをして。容易に想像できる。その想像に嫉妬してしまう。
「いいの？」
「それで司咲ちゃんが笑顔になるなら」
司咲には笑顔がよく似合う。暗い顔も、泣き顔も彼女には似合わない。何より、つばさが司咲の笑顔をもっと見たいと思う。
「ありがとう」
「博喜は司咲ちゃんの、友だち、なんだから俺に断る必要ないでしょ」
わざと『友だち』を強調させてつばさは笑った。博喜が司咲を好きになってしまったら、もうつばさには勝ち目がない。
「でも、つばさは司咲ちゃんが男と2人きりになるの嫌でしょ」
「……嫌だけど、仕方ないよ。司咲ちゃんの交友関係を制限する権利は俺にはない」
それは、彼女の恋人になれたとしても変わらない。司咲が誰かと関わろうとしているのはいいことだと思うから。『1人でいい』と言っていた彼女が、誰かと一緒にいようとしている。基裕はきっと、優しく笑うのだろう。
「そっか」
「司咲ちゃんのこと、傷つけたら許さないから。……笑顔に、してあげて」
「笑顔、は……分からないけど、努力するよ」
「…うん」
司咲が博喜と一緒にいて笑顔にならないわけがない。彼女が想い、慕っている人。胸が痛くて苦しくなるけれど、それが現実。それも受け入れた上でつばさは司咲が好きなのだ。
「司咲ちゃん、かわいいよね」
「あぁ、そうだね。容姿端麗だよね」
「見た目だけじゃなくて性格もかわいい。照れて赤くなるところも、俺にはあまり見せてくれないけど、笑顔がめちゃくちゃかわいい」
「惚気じゃん」
声を立てて笑う博喜に釣られるようにつばさも笑った。
「あ、いた。こんなところで何してるの？」
2人、振り返るとそこには宏文がいてその手には缶コーヒーが握られていた。
「あ、ひろくん。司咲ちゃんがかわいいって話をしてた」
「司咲ちゃんはいいけど、つばさ。涼星が探してたよ。『つばささんがいない』って走り回ってた」
「あ、本当？探してみるね。ありがとう、ひろくん」
「よろしく」
つばさは彼らに手を上げると、早足で涼星を探しに向かった。そんな彼の後ろ姿を追うように博喜と宏文も広間へと戻って行った。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
