泣き虫 ページ23
「…分かるでしょ？好きになったらもう、止められないの。…多分司咲ちゃんに彼氏ができても、結婚しても諦めなんてつかない。友だちに戻るくらいなら、嫌われてた方がマシだよ」
さらけ出してしまったものを今更隠すことも、想いを断ち切ることも、できなかった。叩かれても泣かれても、無理なものは無理。
涙を拭おうと伸ばした手は叩き落とされた。
「触ら、ないで」
その言葉でさえ、つばさの心を貫いた。意外と泣き虫な彼女は目の前で大粒の涙を溢していた。泣くばかりで何も言えない彼女の嫌がる手にタオルを握らせた。
「優しくしないで」
「無理。司咲ちゃんに優しくしない、なんてできないよ。俺の大好きな女の子なんだから」
返そうとするタオルを彼女の顔に押し付けた。触れられないのなら、使ってほしい。
ただ、泣かせたいわけではなかったのに、結果的に泣かせてしまった。
「…迷惑」
「ごめん」
「大っ嫌い」
「ごめん」
「帰る」
「待って！」
背を向けた彼女の肩を慌てて掴んだ。
「もう少しだよ」
「あなたがいるから、基くんが帰ってこない。あなたと2人でなんてお参りしたくない！」
肩越しに睨まれた。それでも、離したくなかった。見えない針がつばさの心臓にグサグサと突き刺さるが、それでもまだ一緒にいたかった。
「もうすぐ戻ってくるから！…だから、お願い」
手を引いて列に戻すと、つばさはスマホを操作するとポケットにしまった。
「離して」
手を振り払われた。つばさから顔を逸らして不機嫌そうな彼女に何も言えなかった。
「喧嘩？」
フラッと戻ってきた基裕に持たされたのは、温かいミルクティー。
「ありがと」
「泣き虫だな」
よしよし、と頭を撫でられて、司咲は彼に抱きついた。
「基くん、もう嫌だよ。崎山さんと2人にしないで。傷付けちゃうから」
「司咲がつばさを？」
こくりと頷く司咲の涙を彼女が持っていたタオルで拭った。
「崎山さんが、私を好きな限り、ずっとよ」
「ごめん」
その背中に触れそうになって、手を引っ込めた。いつも泣かせてしまう。からまわってうまくいかない。彼女の言葉にいちいち傷つくのに、離れられない。側にいたい。ただ単純に、好きなのだ。恋をしている。
「傷つけたく、ないの」
司咲が好きなのは博喜だから。たとえ博喜との恋が叶わなくても、つばさを見ることはない。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
