恋 ページ22
思わず伸ばしかけた手を彼女に触れる寸前で止めた。涙を拭うくらいは許されるだろうか。躊躇っているつばさの手を基裕が掴んだ。
「え」
司咲の頬に指先が触れた。基裕の手が離れていき、焼きつくように目元を拭った。
柔らかい、彼女の肌に触れられたことが嬉しくて表情が柔らかくなっていくのが分かる。
熱を持った視線が好きだと言っていた。つばさの手に触れた彼女の手。胸が高鳴った。少しだけ握ってくれるのだろうかと期待した。
けれど、現実はただ手を下ろされただけだった。すぐに離れていくぬくもりを追いかけたくて、彼女の言葉を思い出して動けなくなった。司咲に恋をすることを彼女が許してくれないから。
目の前の大好きな彼女をただ見ていることしかできない。立ち上がって列に従って進む。
その横顔がキレイで胸がキュンと締め付けられた。やはり、無理だ。友だちになんて戻れない。
「すき」
誰よりもつばさの心を強く掴んで離さない。つばさの言葉を聞こえていないフリをする彼女を振り向かせたくて、優しく声をかけた。
「司咲ちゃん」
それでもまだ反応してもらえなかった。基裕と視線が交わった。口パクで頑張れ、と言われてつばさは微笑んで頷いた。
「ちょっと飲み物買ってくるわ」
そう言ってどっかへ行く基裕に司咲は手を伸ばした。行かないで、とか弱い声をつばさの耳が捉えた。つばさと2人きりになんてなりたくない彼女の気持ちが痛いほどに突き刺さった。
「……こっち見て」
頑なにつばさを見ない司咲の頬を包んで顔の向きを変える。
「嫌。聞きたくない」
ぎゅっと耳を塞ぐ彼女に悲しくなった。何を言われるのか、きっと彼女は分かっていたから。
この胸の痛みはおそらく、ずっと消えない。
「聞いてほしい」
片方の手を耳から離させて言う。
「嫌よ」
耳を塞ごうとしても、彼の方が力が強いからできなくて。
「好き」
耳元で囁かれた言葉は聞こえないフリをするのを許してくれなかった。
「嫌。やめて」
涙目の彼女に追い討ちをかけるように、言葉を囁きかけた。
「愛している」
司咲は右手で彼の腕を数回叩いた。
「なんで？嫌いって言ったじゃない！」
その手を掴んで、泣きそうな彼女の顔を見て、つばさも瞳を揺らした。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
