恋敵 ページ3
滞りなく長野公演が終わり、司咲は少しだけ外に出た。目の前には綺麗な夕焼けと共に笑顔で帰るファンの姿があった。
司咲が関わるものではじめて、畏怖、軽蔑、嫌悪といった負の感情以外の表情をみた。
びっくりして、嬉しくて、少しだけ涙が滲んだ。とりあえず夕焼けをパシャリとカメラに収めると肩に手が乗った。
「綺麗な夕焼けだよね」
「そうね」
答えてからハッとして司咲はその人を見上げてから顔を逸らした。
「ねえ、こっち見て」
懇願する声。答える義理はないのに、なんとなく言う通りに彼を見上げてしまった。
「やっぱり、好き」
頬を両手で包まれる。滲んだ涙を拭われて、微笑まれた。甘くて優しい笑顔だった。
「大好き」
「ごめん」
つばさの両手を下げさせて、司咲はまた夕焼けを見上げた。昼と夜の境目。妖や人外のものが活動的になる時間帯だ。本当は恐ろしい時間帯。それなのに、夕焼けはいつ見ても美しくて嫌いになりきれない。
「司咲ちゃん、やっぱり夕焼け好きだよね」
「……別に」
顔を背けた彼女の顔が夕焼けでオレンジ色に染まっていて、胸がギュッと締めつけられた。
その顔から目を逸らせない。
一途に誰かを想う人を想い続けるのは苦しいだけなのに、どうしても諦められない。次に進めない。司咲がいい。つばさはもう、司咲以外の女を愛することができない。出会ってしまったから、もう彼女以外を見ることができないのだ。
「もう仕事終わり？」
「…片付けがまだ残ってる」
「待ってるから、ご飯食べに行かない？」
「嫌よ」
くるっと身を翻した。そんな司咲の背を追うつばさは傷ついたような顔をしながら、話しかけていた。
「俺と2人きりが嫌なら誰か誘ってもいいから」
「どうして崎山さんとご飯に行かなきゃいけないのよ」
「……好きだから、誘ってるの。司咲ちゃんを愛しているの」
「愛されたって応えられないよ」
「……それは分かってるけど」
つばさは司咲の手をギュッと掴んだ。
「……もう少し近付きたい。お願い。2人きりじゃなくていいから」
少し振り向くと、必死なつばさの瞳が目に入って司咲は視線を落とした。
「…それでも、嫌？俺のこと、そんなに嫌い？」
「……嫌い。だけど、博喜さんが来るなら行ってもいいよ」
出てきた恋敵の名前。強い嫉妬心が溢れ出しそうになって寸前で抑え込んだ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
