新年 ページ20
初詣の日。司咲は2人の男が迎えに来るのを待った。つばさと顔を合わせるのが気まずくて、そわそわと洗濯物を畳んでいた。
思わず叩いてしまった頬。相手は俳優なのに。商売道具である顔に傷ができたらどうしようと心が俯きそうになった時、玄関のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、基裕ではなくつばさが立っていた。
「…あけましておめでとう。今年もよろしく」
ぺこりとお辞儀をすると、つばさもぺこりと頭を下げた。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
にこりと微笑んだつばさを部屋の中に招き入れると、温かいお茶を出した。
「ありがとう」
それを飲む彼を横目に、司咲は押し入れを開けると紙袋を持ってきてつばさに差し出した。
「これ。ありがとう」
「……ありがとう。あ、司咲ちゃんの服、忘れてきちゃった。ごめんね」
「ううん。捨ててくれてもいいよ。…もう、着れないし」
「…分かった」
しん、と会話が途切れた。司咲は畳んだ洗濯物を片付けると、つばさの斜め前に座った。
手を伸ばして、彼の頬に触れた。
「……痛い？」
「大丈夫」
「叩いてごめん」
離れていく彼女のぬくもりに手を伸ばしかけて、つばさは両手を膝の上で握った。
頬はまだうっすら赤かったけれど、じんわりと熱をもったせいでどこが叩かれた場所なのかもう分からなかった。
「俺が悪いよ。司咲ちゃんにキスしたから」
なんだかやはり気まずくて、司咲はスマホに手を伸ばした。
「…俺のこと、嫌い？」
見上げたつばさは何かを堪えているようだった。両手を握りしめて白くなっていた。
「……嫌い……じゃ、ない」
嫌い嫌い、と何度も言ってきたけれど。最初は本当に嫌いだった。でも、何度も助けられるうちに、彼のことを知るうちに情のようなものが芽生えた。少なくとも、今の彼のことを司咲は嫌いではない。
「…そっか。……そっか」
ホッとしたように笑う彼から目を背けた。彼の目が司咲を見つめる。その表情が前と全く変わらない。
「ねぇ、私たちは友だちになれるのよね？」
「…………司咲ちゃんがそう望むなら」
つばさの瞳が揺れた。
酷いことを言っている自覚はある。彼を傷つけていることも分かっている。好きな気持ちはそう簡単には消えないから。
「良かった」
司咲は心の底から嬉しそうに微笑んだ。その顔につばさの胸がずきりと音を立てた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
