約束 ページ17
「ありがとう」
出てきた彼女はやはりぶかぶかで、袖が余っていた。
「こっち」
「もう帰りたい」
「嫌だ。もう少し一緒にいて」
彼女の手を引いてソファに座らせると、頬に触れた。
「かわいい。好き。付き合って」
パシっと手を払われた。
「帰る。ちゃんと洗って返すから」
「待って」
つばさはギュッと彼女の手首を掴んだ。
「もう少しここにいて。……抱きしめないから。触れないから」
つばさにとっては拷問以外のなにものでもないが、それでも彼女と一緒にいたかった。好きな人を繋ぎ止める方法がそれ以外に思いつかなかった。
「……なら、もう少しだけ」
座り直した彼女の手から手を離した。
「司咲ちゃんの優しいところ、大好き」
「そう」
「でも、傷ついてるのに隠そうとしないで」
「はぁ？別に傷ついてないわよ」
「俺に何ができるかわからないけど、言って」
「だから、別に！」
「泣いてる。春ちゃんの言葉に傷ついてるんでしょ」
俯いた彼女の肩に触れたくて、でも約束してしまったから触れられなかった。
「…別に傷ついてない。今更傷つくわけないでしょ。あれが正常なの。崎山さんや博喜さんたちが異常なのよ」
触れられない代わりに、ティッシュを渡した。目元を拭った司咲は小さく微笑んだ。
「心配ありがとう。私は大丈夫」
「やっぱり、好き。大好き。俺と付き合って」
彼女に触れないギリギリまで距離を詰めるつばさを司咲は睨みつける。
「絶対嫌よ。離れて」
「……やっぱり博喜なの？」
その瞳の奥に嫉妬の炎が見えて、司咲は俯いた。
「うん」
誰かを想う気持ちは司咲にもよく分かる。だからこそ、あえてきつく言う。
「私は博喜さんじゃないと嫌。だから私のことは諦めて。崎山さんならすぐにいい人見つけられるわ」
つばさの瞳が傷ついたように揺れた。これまで何度も助けられておいて、心苦しかったけれど。諦めれば彼の心がこれ以上傷つくことはないから。
「司咲ちゃんが、好き」
その頬に触れそうになって、手を握りこんで下ろした。今更、他の人なんて見つけられないし、見つける気もない。他の誰でもない、司咲が好きなのだ。
「司咲ちゃん以外の人なんて、愛せない」
「今だけよ」
「好きでいたい。司咲ちゃんに恋していたい。叶わなくてもいいから。ねぇ、お願い」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
