無理 ページ14
「仕事終わり？」
「…そうだけど。てか、ほんとに離して！」
「嫌」
笑顔の彼に司咲はぷくっと頬を膨らませた。
「寒いんだって。ほんとに嫌い」
司咲が嫌そうに抵抗している姿を見て、彼女は泣きそうな顔で口を開いた。
「そんなに想われてるのに、何が嫌なの」
震える声で問いかけられて、司咲は彼女を見た。
「…私、は」
彼女はつばさと同じ事務所に所属する女優。一目見た時からつばさに惚れて、長いこと片想いをしていた。だが、ここ半年つばさが生き生きとしているように見えて、密かに探っていた。そして、司咲の存在を知った。つばさが1人の女の子を追いかけていることを知った。けど、その女の子はつばさに全く興味がないどころか、嫌っていた。
「強引だし、人の恋路の邪魔ばっかりするし、こうやって触ってくるし、キスしてくるし、ぐいぐいくるから……嫌いです」
ためらいつつ本心を言えば、つばさの手の拘束が緩んだ。すぐさま腕を振り払った。
「恋路の邪魔、ということは好きな人がいるの？」
「はい。……でも…。その人、私のことそういう風には見てないって分かってるんです。でも、諦められないから頑張りたいんです」
「そう。分かるなぁ。私もそうだから」
片想い中の女2人。片方はたった今フラれたところだけれど、共感してしまった。
「私、諸星春っていいます。あなたとは気が合いそう。仲良くしてくれると嬉しいな」
「……えっ」
差し出された手と彼女の顔を交互に見て、司咲の瞳から涙が溢れた。
「あ、ごめん。嫌だった？」
彼女の言葉に司咲は首を横に振る。
「嬉しいんだよ。司咲ちゃん、俺の時は泣いたりしなかったよね」
「崎山さんとは……金輪際関わるつもり、なかったから…」
「酷いよね。こんなに惚れさせておいて」
言いながら背中を撫でる優しい手。
「本当に、好きなんですね」
「うん」
春の言葉が司咲の胸を強く貫いた。彼の手を避けるように立ち上がった。涙を拭いて、手を差し出した。
「本庄司咲です。よろしくお願いします」
「司咲ちゃん、でいい？私のことは春って呼んで。あと敬語もなしね」
手を握られて、司咲は嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しい。……でも、無理しなくていいからね」
そう言って悲しそうな笑顔を見せる司咲に春は首を傾げた。
「無理って…？」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
