捨てられない ページ13
司咲を送り届けた帰り道。
都心から外れた府中は静かで、時間帯的にも人はあまりいなかった。今日もまた、フラれてしまった。心が痛い。彼女が好きすぎて苦しい。涙が溢れそうになって、つばさはきゅっと唇を引き結んで堪えた。こんなに好きになったのははじめてで。今までは1度フラれれば泣いて泣いて、諦められていたのだ。
博喜に向ける笑顔に嫉妬して、表情がなかったとしても瞳につばさが映っていると胸が高鳴る。その姿を見るだけでキュンと胸が締め付けられる。
ため息を吐いた。駅の改札を通って、ふと見つけたゴミ箱。近づいて、ポケットから取り出したバレッタ。彼女の髪によく似合っていた。受け取ってもらえなかったそれはつばさには使えない。司咲以外の人の髪についているのも嫌だ。だけど、やはり捨てられなかった。バレッタを挟んだ指をどうしても離すことができない。
「……っ」
手の中に握り込んで、近くのベンチに座った。司咲も女の子だから、喜んでくれると思った。受け取ってくれると思っていたのだ。
下心がないと言えば嘘になるけれど、深く考えなさすぎた。髪飾りを贈って、少しでいいからつばさを意識してほしいと思っただけ。
電車に飛び乗って、つばさは自宅へと帰った。フラれた痛みも、贈り物を断られた悲しみも、消えてはくれなかった。
『良いお年を』と、飛び交う声。司咲もその言葉を口にして、年内最後の仕事を終えた。
雪がパラパラと降っていて、コートにマフラーまで巻いているのに寒くて腕をさすった。吐く息が白く、指先から凍えてきた。
「うぅ、寒い」
ピューと風が吹いて、司咲は首をすくませた。その辺を漂っている霊はそんな感覚はないから、少しだけ羨ましい。
ふと前を向くと、つばさの後ろ姿を見つけた。司咲よりも背が低い女と一緒だった。彼らが立ち止まった。そんな様子にはあまり興味がなくて、普通に歩いていた。
「ごめん。俺好きな人いるから…」
耳に滑り込んできた声に、司咲は気付かれずにその場を去ろうと足を早めた。その隣をこっそり通り過ぎようとした時、その腕を掴まれた。
「きゃっ」
「司咲ちゃん、酷い。気付いてたなら声かけてよ」
「離して。寒いから帰りたいんだけど」
彼女からの視線が痛い。ぐいっと腕を彼の手から逃れようと動かしてみるが、びくともしない。司咲はキッとつばさを睨んだ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
